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美の真理 <オーストリア・シュタイヤーマルク特集:Part.1>

調和こそ美の真理であり、調和無き美は存在しない。

 

クラシックか、ナチュラルか。

探究を拒む人々によって二極化された世界観に興味を失ってから、随分と時が経つ。

 

固定された価値観の中で話をするのなら、私が探し求めているテロワール・ワインは、そのどちらでもなく、どちらでもあるからだ。

 

美の対は破壊であり、極端なクラシックもナチュラルも、極めて破壊的となり得るのだから、そこに美が宿らないのは必然である。

 

 

美とは理性的であると同時に、感性的でもある。

 

ワイン的表現をするのであれば、理性的な美とは、天地、葡萄、人の総体を意味し、感性的な美とは、極限まで純化されたエネルギーとなる。

 

理性的な美は、分析によって客観視することができるが、感性的な美は、極めて主観的なものだ。

 

だからこそ、美の真理へと到達するためには、私自身が理性的かつ感性的であらなければならない。

 

 

シュタイヤーマルク地方

オーストリアのシュタイヤーマルク地方を訪れた理由は、テロワールという美の真理を追い求めていたからに他ならない。

 

遠く離れた日本からの分析とテイスティングによって、シュタイヤーマルクという地に、理性的かつ感性的な美を備えたテロワール・ワインが少なからず存在していることは認識していたが、その地の雄大な自然を眺め、葡萄畑の土を踏み締め、風を肌に感じ、香りを取り込んで、ワインを味わう、つまり自らの五感を通じて体験する、という最後のピースをはめるために、どうしても現地を訪れる必要があった。

 

Part.1及び2では南シュタイヤーマルクの造り手たちを、Part.3では西シュタイヤーマルクとヴルカンラント=シュタイヤーマルクの造り手たちを通じて、美の理性と感性に迫っていくが、その前に少し、数奇な運命を辿ってきたシュタイヤーマルク地方の歴史にも触れておこう。

 

 

シュタイヤーマルク地方は、現在ではオーストリア領となっているが、歴史的には南側の現スロベニア領を含む一つの「スティリア地方」(*)として栄えてきた

 

(*):以降、現スロベニア領の南側を含むかつての一地域としてのスティリア地方、現オーストリア領のシュタイヤーマルク地方、現スロベニア領のシュタイエルスカ地方と明確に分けて記述していく。

 

紀元前の時代からケルト人がスティリア地方に居住していたが、ローマ帝国の時代にはこの地域もローマの支配下に入り、重要な交易路として発展した。

 

ゲルマン民族の大移動を機に、西ローマ帝国の統治から離れたあとは、スラブ系のカランタニア公国、ゲルマン系のフランク王国と領主が変遷したことによって、スティリア地方の民族的多様性が形成され、その中心都市であったグラーツも、商業、文化、行政の中心地として重要性を増した。

 

現在のシュタイヤーマルク地方及びシュタイエルスカ地方とも直接的に繋がっていく統治体制となったのは、1282年にハプスブルグ家のアルブレヒト1世による支配が始まってからのこと。

 

15世紀から16世紀には、オスマン帝国の侵攻によってスティリア地方は著しく荒廃したものの、ハプスブルグ家による支配は、オーストリア=ハンガリー帝国が第一次世界大戦に敗れる1918年まで、600年以上に渡って続いた。

 

第一次世界大戦後、パリ講和会議を経てオーストリア=ハンガリー帝国は解体され、スティリア地方の南半分は、セルブ=クロアート=スロヴェーン王国(後のユーゴスラビア)のシュタイエルスカ地方として組み込まれた。

 

第二次世界大戦時には、ナチス・ドイツによってオーストリアとユーゴスラビア王国が占領されたため、再度一つのスティリア地方(シュタイヤーマルク帝国大管区)として統合されたが、敗戦後に再度分割された。

 

スロベニアが2004年にEUとシェンゲン協定に加盟するまでの間、オーストリア領とスロベニア領を自由に行き来することは叶わなかったが、現在はそこに見えない国境が存在しているだけとなっている。

この写真を見ていただきたい。

 

道路の右側に広がる斜面はオーストリア領の葡萄畑であり、左側はスロベニア領の葡萄畑となっているが、検問など当然なく、徒歩で自由に往来することができる。

 

 

南シュタイヤーマルク

スティリア地方は、紀元前にケルト人が入植した頃からワイン造りが行われてきた、歴史深いワイン産地であるが、現代に至る素地が形成されたのはハプスブルグ家の時代となる。

 

オスマン帝国の侵略などによって荒廃していたスティリアの葡萄畑が復興したのは、18世紀後半に、女帝マリア・テレジアとヨーゼフ2世(マリー・アントワネットの兄)が実権を握り、大きな経済的発展を果たした時のこと。

 

さらに1854年、ハプスブルグ家出身者の中でも極めて優秀な人物として知られ、スティリア地方とグラーツを治めていたオーストリア大公ヨハン・バプティスト・フォン・エスターライヒ(ヨハン大公)が、スティリア地方に425種にも及ぶワイン用葡萄を植えた

 

スティリア地方の未来を見据えた試験的栽培であったことに、フィロキセラ禍の襲来も重なり、それらの葡萄の大半が急速に失われていったが、ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネ(モリヨン)は力強く根付いた

 

近年の国際市場におけるシュタイヤーマルク地方の躍進を担ってきたのが、南シュタイヤーマルクであることに疑問の余地は無いだろう。

 

そして、ソーヴィニヨン・ブランとモリヨン(現地の発音は“モリロン”に近い)がその原動力となったのも間違いない。

 

フランス系国際品種が世界的なスタンダードとなった1980年代以降という時代も、南シュタイヤーマルクを後押しした。

 

この地には純粋な固有品種と呼べるものがほとんど残っていなかった一方で、100年以上もソーヴィニヨン・ブランとモリヨンが根付いていたため、その主産地であった南シュタイヤーマルクは、新たに国際品種を導入した他産地と比べても、一日の長ならぬ、百年の長があったのだ。

 

 

南シュタイヤーマルクのテロワール

南シュタイヤーマルクは5つのゾーンに分けることができる。

主要な土壌組成もそれぞれ異なり、北部のKitzeck-Sausatは片岩と花崗岩が主体、西部のEichbergは砂利が主体、東部のEhrenhausenは石灰岩が主体、南部のLeutschachはオポーク土壌(石灰質を多く含む泥灰土)、そして中央部は全ての主要土壌タイプが混在するGamlitzとなる。

 

南シュタイヤーマルク全体が、非常に複雑かつダイナミックに入り組んだ丘陵地となっており、葡萄畑の標高は約250~700mまでと幅広く、斜面も様々な方角を向いている。

 

斜角20~50度という急勾配の畑が非常に多い、というのもまた南シュタイヤーマルクのシグネチャーだ。

 

このように、ゾーン毎に土壌ベースで大まかな総体的特徴が見受けられはするものの、実際には葡萄畑単位で土壌、標高、斜面の方角、葡萄品種を見ていく必要があるだろう。

 

非常に難解に思えるかも知れないが、幸いなことに、テロワールの理性的な美を客観視するために必要なそれらのデータは、こちらのリンクで詳細まで確認することができることも多い。

 

また、南シュタイヤーマルク全体として、その冷涼気候故に、世界的な気候変動の最中でもアルコール濃度がさほど上昇していないことは、特筆すべき点だろう。

 

Part.1では、特に理性的な美に優れたワインを手がける南シュタイヤーマルクの造り手を紹介していこう。

 

 

Sattlerhof

Gamlitzに拠点を置くSattlerhofは、1886年に設立されたワイナリーで、現在のサットラー家所有へと変わってからすでに三世代目となっている。

 

かねてから、古典の真髄を行く精緻なワイン造りで名高いワイナリーであったが、現在はアレキサンダー(アレックス)、アンドレアスの若いサットラー兄弟によって、ナチュラルでありながらも極めてクリーンなテロワール・ワインへと着実な進化が進められている。

 

葡萄畑はオーガニック栽培を経て、現在はビオディナミに転換。緻密な手仕事と豊かな生物多様性によって、一歩踏み外せば50mは転げ落ちそうな急勾配の葡萄畑は、素晴らしく居心地の良い空間となっていた。

醸造においても、濾過を廃し、亜硫酸添加は瓶詰め直前のみへと変更した。添加量も35mg/Lと非常に低い水準まで徐々に減らしてきたが、今後どれだけ落とすべきなのかは、実験を重ねながら慎重に見定めていくとのこと。

 

アレックスと葡萄畑を巡った後は、テロワール論に花を咲かせながらテイスティングを進めた。

 

数多くの意義深い対話の中で、特に印象に残っているのは、テロワールと収穫時期の関連性にまつわるアレックスの話だ。

 

「葡萄畑のテロワールを最高の精度で表現するために、我々に与えられた収穫のタイミングは最大でも僅か3日間。葡萄畑と共に日々あり続け、そのタイミングを正確に読み切ることが、最も優れた方法であり、最も難しいチャレンジだ。」

 

では、サットラー兄弟のヴィジョンが体現された、珠玉の単一畑ワイン群を紹介していこう。

Ried Kapellenweingarten, Sauvignon Blanc 2021.

最高標高600m、最大傾斜角35度、南東方向に開けた単一畑で、土壌は小石と石灰岩が主体となる。斜面中腹の区画からなるソーヴィニヨン・ブランは、極めてフレッシュで洗練されたアロマ、タイトなフェノール感、高い集中力とフィネスを兼ね備えた、極めて端正なテロワールを表現している。

 

Ried Kapellenweingarten, Morillon 2021.

同単一畑のモリヨンは、斜面最上部の、岩石が多い区画から。スマートでフリンティーなアロマ、高い集中力と正確性、非常に緻密なミネラルの表現は、かつての偉大な特級畑シャブリを思わせるほどの完成度。

 

さらに、アレックスが2種のRied Kapellenweingartenをワイングラスの中でブレンドしたところ、さらなる複雑性と完全性を実現しつつも、この葡萄畑らしいフレッシュさが十全に発揮された、一段階も二段階も上の偉大なワインへと変貌。

 

将来的には混醸にして、葡萄品種名を記載しない、クリュ・ワインとして進化させたいそうだ。このラフにブレンドされたワインを味わっただけでも、その方向性は正しいとしか私には思えない。

 

Ried Alter Kranachberg “GSTK”, Sauvignon Blanc 2021.

最高標高450m、最大傾斜角40度、南西方向に大きく開けた単一畑で、土壌は石英と石灰岩が主体となる。温と冷の要素が絶妙にブレンドされたテロワールからは、ヴォリューム感のあるスモーキーでスパイシーなアロマ、丸く大きな体躯、強固なフェノールのストラクチャー、重厚なレイヤーの果実味が素晴らしい、大傑作ソーヴィニヨン・ブランが生まれる。

また、Alter KranachbergはS.T.K.(シュタイヤーマルク地方のトップワイナリーが参画する強力な生産者団体で、ドイツのV.D.P.と同様に独自の厳格な規定に基づいて、一級畑相当の1STK、特級畑相当のGSTKを認定している。)によって、特級畑として認定されている。

 

Ried Pfarrweingarten “GSTK” 2021.

最高標高380m、最大傾斜角45度、南方向に大きく開けた単一畑で、土壌は貝殻化石系石灰質が主体となる。Sattlerhofが単一畑としてリリースする中でも、最も温暖なテロワールを有しており、樹齢50年を超えるモリヨン、ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)、グラウブルグンダー(ピノ・グリ)を混醸しているため、葡萄品種表記が無い。驚異的な透明感と多層感を讃えるアロマ、石灰をダイレクトに思わせる鮮烈なミネラル、極めて高い純粋性が宿った果実味が渾然一体となり、異次元の完成度へと至っている。混植混醸の白ワインとしては、全オーストリアでも指折りのクオリティだ。Kapellenweingartenのグラス内ブレンドで感じた大いなる可能性が、このキュヴェのテイスティングによって完璧に証明されたと言える。Pfarrweingartenもまた、GSTKとなる畑だ。

Ried Trinkaus 2021.

最高標高500m、最大傾斜角35度、南方向に大きく開けた単一畑で、石灰、石英、小石が入り混じる複雑な土壌が主体となる。200年前の地図にもその名が載っていたほどの由緒正しき葡萄畑であり、Sattlerhofが誇る正真正銘のフラグシップだ。温、冷の要素と、抜群のエアフローによる寒暖差、複雑さをもたらす土壌と、長年に渡るマッセル・セレクションで実現された多様性。あらゆる要素が、最高のスイートスポットに集まった、紛うことなきグラン・クリュだ。この偉大なテロワールを前にしては、ソーヴィニヨン・ブランという主張の強い葡萄も、忠実なミディアムと化す。底知れぬ複雑性を垣間見せるアロマ、三次元的ストラクチャーを構成する酸、フェノール、ミネラル、隔絶したフィネス、悠久の余韻。信じがたいほど高品質なテロワール・ワインであり、ソーヴィニヨン・ブランとしても、世界の「例外」クラスに間違いなく位置している。その実力は疑いようもなくGSTKに相当するが、10ヴィンテージ以上単一畑名でリリースされている、という規定をまだ満たしていないため、現時点ではGSTK認定には至っていない。

 

 

 

Weingut Gross

Ehrenhausenに拠点を置くWeingut Grossは、オーストリア=ハンガリー帝国の解体に翻弄されてきたワイナリーだ。

ワイナリーの歴史は、1907年にWitshcheiner Herrenbergという葡萄畑を購入したことによって始まったが、その畑は第一次世界大戦後にセルブ=クロアート=スロヴェーン王国領へと組み込まれた

 

しかし、畑の最上部が国境に接していたこと、パリ講和会議以前から所有していたことから、特例として戦後も葡萄畑の所有と管理が認められた

 

第二次世界大戦後の1945年、ヨシップ・ブロズ・チトーによって社会主義国家となったユーゴスラビアが国境線を厳格化した際には、ついにWitshcheiner Herrenbergを失ったかに思えたが、1953年のグライヒェンベルグ協定によって再度返還され、またもや特例的に、シュタイヤーマルク内での醸造及び、シュタイヤーマルク産高品質ワイン(Qualitätswein)としての販売が認められた。

 

2018年にEU法が改訂された際に、協定による特例は無効となり、Witshcheiner Herrenbergはシュタイヤーマルク産と名乗ることができなくなってしまったが、100年以上この畑を守り続けてきたGross家にとって、Witshcheiner Herrenbergは今も昔も変わらず「スティリアの葡萄畑」であり、何よりも、最高のワインを生み出すGross家の畑なのだ。

現在は、2人の若い兄弟がGross家のワイン造りを担っており、兄のヨハネスWitshcheiner Herrenbergを含む南シュタイヤーマルク側の葡萄畑を管理し、Weingut Grossとして販売、2018年以降は、弟のミヒャエルがスロベニア側の葡萄畑(2005年以降からGross家が徐々に購入)を管理し、完全に別組織となるVino Grossとして販売している。

 

共同でGross&Grossという銘柄も手掛けているが、両ワイナリーは場所やコンセプトだけでなく、資本的にも異なるので、混同は禁物だ。

 

では、クリーン&ナチュラルなワインとして、テロワールの精緻な表現に極めて長けたWeingut Grossのワインの中から、理性的な美の粋となる単一畑キュヴェを紹介していこう。

Ried Bärenburg 2020.

こちらの畑は、Weingut Grossが近年新たに購入した。Ehrenhausenの中でも最も冷涼なスポットであるため、周辺の農家からは反対もあったそうだが、気候変動も見据えて、この畑の可能性を信じたヨハネスが取得に踏み切った。植樹されている品種はヴァイスブルグンダー。抜群にフレッシュな柑橘とハーブのアロマ、タイトで端正なフェノール、スマートな果実味、エッジの効いた酸には、見事としか言いようがないほど明確に、冷涼なテロワールが刻まれている。

 

 

Ried Nussberg Stauder “GSTK” 2020.

ワイナリーに隣接するNussbergは、GSTKにも認定されている、Weingut Grossを象徴する葡萄畑の一つ。標高は370~460m、最大傾斜角43度、南から南西に開けた畑となる。NussbergはGrossによって更に3つの小区画に分けられており、最上部の高台に位置する“Stauder”にはヴァイスブルグンダーが植樹されている。Nussbergは全体的に石灰質主体の土壌となるが、細かい組成は小区画ごとに異なっており、こちらのStauderは粘土と風化した石灰岩が主体となる。斜面最上部とあって、冷涼なニュアンスがはっきりと出た、複雑かつフレッシュなアロマ、多層的なフルーツと強力なミネラル、強靭なフェノールの骨格は、確かにワンランク上のヴァイスブルグダーとして異彩を放っている。

 

 

Ried Perz “1STK” 2021.

標高410~470m、最大傾斜角32度、南東向き斜面となるPerzは、Nussbergに接しているが、石灰を含まないロームと砂利の土壌となるため、テロワールが大きく異なる。植樹されている葡萄は、ゲルバー・ミュスカテラーだ。過度の日照に弱い品種であるため、強い西日を避けつつ、柔らかい朝日を得られる立地は理想的。風通しも良いため健全な状態を保ちやすくもなる。この品種らしい、芳醇で華やかなアロマを宿しつつも、輪郭が一切ぼやけることなくタイトさを保ち、高い正確性とフィネスを誇る、ゲルバー・ミュスカテラーとしては隔絶した品質のワインとなる。つくづく、テロワールごとに最適な葡萄品種を選び抜くことの重要性を、このようなワインから痛感させられるものだ。

 

Ried Nussberg Preschnigg “GSTK” 2020.

Nussberg下部となる小区画Preschniggは、石灰質砂岩が主体となり、やや温暖な超マイクロ気候を活かしてモリヨンが植樹されている。よく熟しながらも洗練されたアロマ、非常に明朗かつ強固なストラクチャー、丸い果実味と鋭い酸のコントラスト、心地良い苦味を伴うミネラリーな余韻からは、個性と品質が高次元で両立されているのをはっきりと感じる。少々ニッチな表現にはなるが、ブルゴーニュのPouilly-Vinzelleを思わせる酒質だ。

 

Ried Sulz “1STK” 2020.

合計100haにも渡って広がる歴史的なSulzは現在、オーストリア領とスロベニア領に分断されている。Weingut Grossが所有する区画は標高370~450m、最大傾斜角25度、オポーク土壌が主体の南東向き斜面となり、南シュタイヤーマルクでも最も温暖な単一畑の一つ。熟度の高い柑橘のアロマに、爽やかな花香が加わり、丸みを帯びた果実味と酸が一体化しつつ、フォーカスとフィネスにも長けている。テロワールが精緻に刻まれた、見事なワインだ。

 

 

Ried Nussberg “GSTK” 2020.

Nussbergの中腹にあたる小区画Leit’nは、オポーク土壌が主体(一部には火山岩も)となり、ソーヴィニヨン・ブランが植樹されている。柑橘、ピーチ、フェンネル、スモークからなる複雑で開放的なアロマ、高次元の熟度に反するかのようなフィネス、フレッシュな酸、緻密なミネラル感。様々な要素が渾然一体となり調和した、大傑作ソーヴィニヨン・ブランである。

 

Witshcheiner Herrenberg 2019.

標高415~465m、最大傾斜角30度、石灰をより多く含むオポーク土壌、南東に開けたスロベニア領のWitshcheiner Herrenbergは、新EU法によってシュタイヤーマルク産を名乗る権限を奪われてもなお、Weingut Grossのフラグシップワインとして君臨している。地勢がもたらす大きな寒暖差によって、葡萄は酸を蓄えつつゆっくりと成熟し、驚異的に複雑なフェノールを宿す。ソーヴィニヨン・ブラン主体だが、10%ほどゲルバー・ミュスカテラーが混植されている。ソーヴィニヨン・ブランの爽快さに、ゲルバー・ミュスカテラーの芳醇なニュアンスが加わった極めて外交的なアロマ、立体的なストラクチャーを構成する、凝縮したフルーツ、分厚い酸、強靭なフェノール、そして圧倒的なまでの集中力。年産僅か700本程度の非常に希少なワインだが、血眼になってでも探し出す価値がある。SattlerhofのRied Trinkausと共に、GrossのWitshcheiner Herrenbergもまた、例外的品質のソーヴィニヨン・ブランだからだ。

 

Part.2では、南シュタイヤーマルクから、より「感性的な美」の側面が強い造り手を紹介していく。