オーストラリア、バロッサ・ヴァレーのニュースターYelland & Pappsイエランド・パップス。
スーザンとマイケルのカップルが手掛けるワインは、日本入荷がまだ昨年10月に始まったばかり。生産量もとても少ないので、見かけたらぜひ飲んでみて欲しいワインを今回はご紹介します。
オーストラリアは、マルセル・ラピエールに影響を受けたルーシーマルゴーを初め、21世紀当初からナチュラルワイン旋風を巻き起こしている興味深い国です。
しかしながら、消費者のみなさんのオーストリアワインのイメージは、イエロー・テールをはじめとする、飲みやすい果実味たっぷりの安価なブランドワインなのではないでしょうか。
では、そのイメージはどこからきているのでしょう。
1996年、オーストラリアのワイン業界は“Strategy2025”を策定。
「2025年までにオーストラリア産ワインの認知度を全世界的に高め、市場においてオーストラリア産ワインの地位を確立する。その結果、年間45億豪ドルの売上を達成する。」という無理難題とも思える目標を掲げるのですが、なんと20年も早い2005年には達成してしまうのです。
この偉業こそが、拭いきれないイメージを確立してしまう訳ではありますが、そもそもヨーロッパ産地がすっぽりと入ってしまうくらい大きな国であるオーストラリアが、一つのスタイルのワインしか造らない、造れないなんてこと自体がナンセンスなのです。
また、ヨーロッパと異なり、原産地呼称に雁字がらめにされていない新世界の生産者はもっと自由に、もっと現状を反映したワインを造る選択肢をもち合わせています。
更に、ワイン・コンテストがオーストラリアワイン産業発展の原動力の一つにもなったとも考えられますが、オーストラリアで優れた新進気鋭のワインメーカーを表彰する“ヤングガン・オブ・ワイン”の受賞者をみると、いかに今のオーストラリアのワインシーンがエキサイティングかが計り知れるでしょう。
本日ご紹介するイエランド・パップスは、その“ヤングガン・オブ・ワイン”で「ベスト・バロッサ・グルナッシュ」に2020セカンドテイク・グルナッシュが選ばれた造り手です。
バロッサGIはより標高が高く、より冷涼なイーデン・ヴァレーと、温暖なバロッサ・ヴァレーで形成されます。イエランド・パップスはバロッサ・ヴァレー北部のNuriootpaヌリオートゥパに居を構えます。
その5エーカーのエステートに足を踏みいれると、まるでバロッサに人々が住み始めたばかりの19世紀半ばさながらの光景。羊たちや野菜やフィグ、マルベリーの畑が広がっています。この伸びやかな地で、マイケルとスーザンのカップルはワインを造り、ペイトンとキャンベルの二人の子供を育てています。
彼らの造るセカンドテイク・グルナッシュは、彼らの素朴で自然な暮らしを体現したような、無垢な味わいです。
グルナッシュは、高い糖度をもち、酸味は穏やか、熟した赤系果実にスパイシーなアロマをもち、他の品種とブレンドしてフルボディで凝縮度の高いシャトーヌフ・デュ・パフのようなパワフルな赤ワインを造ることの方が一般的かもしれません。
ただ、シャトーヌフ・デュ・パフにも100%グルナッシュから、とてつもなくエレガントなワインを造るシャトー・ラヤスが存在します。
そして、近年ではスペイン・グレドス山脈周辺のダニエル・ゴメス・ヒメネス・ランディやボデガス・イ・ビニェドス・ヴェルムなど、グルナッシュのもつエレガンスに注目する生産者が増えてきています。
元来果皮が薄く、淡い色調と柔らかなタンニンをもつこの品種は、フレッシュなイチゴやラズベリーの風味をもつ“ピノ・ノワール”と紛うような繊細で華麗なワインを産むこともできるのです。
私はセカンドテイク・グルナッシュ飲んで、その柔らかな喉越し、フレッシュで活力溢れる果実風味に驚きました。そして、アルコール度数はなんとわずか12.3%。
このアルコール度数は、飲み心地軽快なこのワインのチャームポイントに大きく貢献していると思いますが、単純に早摘みの手法で糖度を抑制しているのではありません。低収量は高品質の要のように思われているかもしれませんが、特に温暖化が進む現在、収量を低く抑えるだけが、よりバランスのとれたワインを造るとは言い切れません。イエランド・パップスでは、あえて少し収量を高めにコントロールすることによって、糖度の上昇を抑制し、十分なハングタイムを確保し、理想とするフレーヴァーがしっかりと成熟したタイミングで収
穫を行なっています。その他、生育期前のわずかな灌漑、キャノピー・マネイジメントやカバー・クロップ等、バランスの優れたワインを造るために、彼らの理想とする最高の状態でブドウを収穫する努力を行なっています。
そして、彼らの信条は「バロッサで自分たちが飲みたいと思えるワインを造ること」。
彼らはまさにミニマム・インターヴェンションの手法を栽培においても、醸造においても実践しています。これが成し遂げられるのもバロッサの地にぴったりあった「適地適品種」のブドウを栽培しているからでしょう。
彼らの自社畑ではこの11年、合成科学農薬だけでなく、硫黄や銅を含む⼀切の農薬を使用していません。適地適品種であるからこそ、無理なく健全にブドウが生育し、健康なブドウをシンプルにワインにすることができるのです。
バロッサといえば、世界に誇るべき古木が現存することをお伝えしておきます。2009年には“Barossa Old Vine Cheater(バロッサ古木憲章)”が制定されました。
① Old Vines 樹齢35年以上
② Survivor Vines 樹齢70年上
③ Centenarian Vines 樹齢100年以上
④ Ancestor Vines 樹齢125年以上
イエランド・パップスに使用されるブドウの中には自根で、あと数年でCentenarian Vines に認定されるグルナッシュの古木も含まれます。
また、同じシリーズのルーサンヌもぜひ飲んでいただきたい⼀本。
バロッサ・ヴァレーの白ブドウというとシャルドネやセミヨン、リースリングですが、彼らがルーサンヌを造る一番の理由は信頼する栽培農家であるデイヴィット・マラーン氏の、古木で自根のルーサンヌが何より気に入っているからなのです。
柔らかなアロマと口当たり。フレッシュな白桃をまるかじりしたようなピュアなフレーヴァーと旨味、しなやかなテクスチャー。アルコール度数12.5%。ごくごく飲みたい飲み疲れしないワインです。
2021 Barossa Valley Roussanne バロッサヴァレー ルーサンヌ
産地 : 南オーストラリア州 バロッサヴァレー
サブリージョン : グリーノック (海抜300m)
ブドウ品種 : ルーサンヌ100%
アルコール度数 : 12.5%
生産本数 : 1,860本
インポーター:ファームストン
参考小売価格 : ¥6,600(税別)
2020 SECOND TAKE GRENACHE セカンドテイク グルナッシュ
産地 : 南オーストラリア州 バロッサバレー
サブリージョン : ヴァインヴェール (海抜280m)
ブドウ品種 : グルナッシュ100%
アルコール度数 : 12.3%
生産本数 : 5,033本
インポーター:ファームストン
参考小売価格 : ¥6,600(税別)
<筆者プロフィール>
青山 敦子 / Atsuko Aoyama DipWSET
WSET. Level4 Diploma
WSET. Certified Educator
アカデミー・デュ・ヴァンWSET 資格取得コース主任講師
ギリシャワイン・オフィシャル・アンバサダー
2018年 Wines of Greece World of Greek Wine Program 最優秀賞
IWCインターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドンAssociate Judge
WSET ディプロマコースをロンドン本校で学び最速最短の1年半で取得。ロンドン本校にて認定講師と認められた唯一の日本人。
英国スパークリング専門誌 “Glass of Bubbly”のライター、WSET Level 3筆記・テイスティング試験採点官を務め、約8年過ごしたロンドンから2016年に帰国。
ステティーヴン・スパリュア氏の紹介でアカデミー・デュ・ヴァン講師となり、2016年12月WSET 日本語コースをゼロから立ち上げる。現在アカデミー・デュ・ヴァンWSET講座は常時14クラス程度開講。