ソムリエという職業を志した時から、また勉強を続け、世界のワイン産地を頻繁に目にするようになるにつれ、いつか日本を出て海外でソムリエとして働いてみたいと思った方は少なくないと思います。
フランスへ行けば、きっと誰しも一度は憧れるブルゴーニュやシャンパーニュがあり、カリフォルニアには両サイドにそびえ立つ雄大な山々と広大な葡萄畑。そんな場所が身近に存在する環境で、休日はワイナリー巡りなんて羨ましいの一言ですよね!ね!
今回は、タイトルの通り海外でソムリエとして働くことについて、実体験を交えながら。
では早速、日本のソムリエと海外のソムリエの違いについて、私が感じること。
一つは、知識。
日本でソムリエとして働く方の多くが、日本ソムリエ協会認定ソムリエという資格を有しており、資格取得のために寝る間も惜しんで猛勉強をされたことかと思います。歴史から栽培、醸造、品種や産地の違いなど広範囲に渡って修得した知識は、主要なワイン生産国出身のソムリエと比較しても、決して引けを取らないどころか、むしろ“基礎知識”という一点に限ればそれ以上のものを有していると感じます。
修得した知識が、実際にレストランで働く上で活かせるかどうかは、業態やジャンルによっても違ってくるとか思いますが、どんなワイン産地でどんなワインを作っているか理解しているというのは、どこの国で働くにしてもアドバンテージになることは違いないです。
では海外のソムリエはどうかというと、日本のように広く浅く知識を持つというよりは、専門的に、特定の産地に対して深い知識を持つソムリエが多いように感じます。「え、それ知らないんだ」と思うこともあれば、「なんでそんなことまで知ってるの」と思うこともしばしば。それもそうですよね、だって彼らにとっては地元で作ってるワインですから、気候や地勢はもちろん、生産者と幼馴染なんてことも当たり前で、日本人にとっての酒蔵が彼らにとってはワイナリーということ。
次に、日本と海外のソムリエ間で大きく違うと感じるのは、とにかく売り上げをしっかりあげるという意識。お店の規模や方針により必ずしもそうとは限りませんが、ソムリエはゲストにワインを提案・サーブし、売り上げを確保する。少々乱暴な言い方をすれば、ソムリエは1円でも多くワインを売ることに特化したポジションだということ。レストランにおけるワインの売り上げは非常に大きく、そこで得た売り上げが自分たちの給与として返ってくるため、ソムリエ以外のスタッフにもソムリエが1杯でも多くワインを売れるようにサポートをお願いします。(それでワインが売れない日は冷たかったりするんだけど…)
さて、ここまでは私が感じた日本と海外のソムリエの違いを述べてきましたが、ここで少し海外の中でもまだワインのイメージが少ない、東南アジア。その中でも私が住んでいたバンコク(タイ)でのソムリエ事情を。
バンコクの年間の平均気温29度、熱帯に属するタイは、氷が入ったグラスにビールを勢いよく注ぎ入れ、水のように飲むというのが習慣で、ワインのイメージをお持ちでない方も多いかと思います。しかし実際は、在留外国人の増加や海外資本の参入などによる外食産業の成長に伴い、以前の「バンコク=安いストリートフード」だけでは到底言い表せない程、多様なジャンルのレストランが凌ぎを削っています。
保管や輸送に関して問題はたくさんありますが、こと消費の観点だけに注目すると、確実に成長を続けており、伸び代の観点では今後も大きな期待を持てるのではないかと思います。これは他の東南アジアの国々でも同じことが言えます。
また、ソムリエのレベルに関しては決して高いとは言いがたく(もちろん世界的に有名で素晴らしいソムリエもたくさんいます!)、そういった環境の中でソムリエとして働くことのメリットとして、海を渡って比較的早い段階で即戦力として活躍できることが一つ挙げられます。ワーキングホリデービザで海外に修行に行ったは良いが、ソムリエとして働き始めた頃には残り数ヶ月しか残っていなかった、といった話をよく聞きます。それはそれで、日本にいた時には得られなかった経験値を得ることがあるとは思いますが、どうせならソムリエとしてバリバリ働きたいですよね。
言葉の壁に関しては、英語が第一言語じゃない移民が多いため、ヨーロッパやアメリカ・オーストラリアと比べると、慣れるのに時間はかからないように思いますし、あらゆる人種が混在するコスモポリタンな街なので(英語でのコミュニケーションは、東京よりバンコクの方が圧倒的にスムーズ)、世界中の英語を日常的に触れる機会があるという点では、ある意味すごく魅力的なことだと思います。
ただ、もちろん苦労する点もございます。
それは、どれだけ英語が話せても、ワインの知識があっても、そこはまだまだ東南アジア。こちらの提案を受けてもらえないことも多々あります。特にナチュラルワインに関してはその傾向が強く(在留、観光問わずタイやインドネシアを訪れる層は、バカンスでの滞在が多く、比較的裕福で年齢層も高め、ワインはクラシックなスタイルを好む方)、良く言えば好みがはっきりしていて、悪く言えば新しいものを知ろうとしない方が多い印象です。まぁこの点に関してはきっと日本も同じ時があったと思うので、私としては今後そういったワインが日常的に飲めるようになってほしいと願います。
最後に、バンコクでソムリエをしていた当時、跳ね返された回数断然トップの生産者をご紹介します。
生産者:Sebastien Riffault / セバスチャン・リフォー
ワイン名:Skeveldra / スケベルドラ
葡萄品種:ソーヴィニヨン・ブラン
ワインタイプ:White / 白
生産国:France / フランス
生産地:Loire Valley / ロワール地方
ヴィンテージ:2015
インポーター:ディオニー 株式会社
参考小売価格:¥4800
「おいおい、お前はサンセールも知らないのか」
「わたし、ソーヴィニヨン・ブランって言ったんだけど、シェリーなんて頼んでないわ」
これは実際に私が言われた数々の言葉の極一部です。笑
確かに多くのSB、サンセールと比べると一癖も二癖もあるこちらのワイン。それでもオススメしたい、きっとずっと大好きな生産者。その理由はぜひ一度飲んで頂きたいと思います。
<ソムリエプロフィール>
森本 浩基
1989年 大阪府生まれ
大阪のイタリア料理店でソムリエのキャリアをスタートし、その後はフランス料理店、スペイン料理店などで研磨を積み、2017年カリフォルニア ナパヴァレー Matthiasson で醸造を経験後、当時 Asia 50 Best Restaurant 4年連続 No.1 のインド料理店 Gaggan でソムリエを務める。
2020年東京兜町にオープンする Caveman ヘッドソムリエに就任。