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どう違う?イタリアとオーストラリアのサンジョヴェーゼ

この仕事をしていると必ず聞かれるのが、「得意なワイン産地はどこですか?もしくは苦手な国は?」と言う質問。


東京でソムリエをしている以上あまり知識が偏るのは問題なので、まんべんなくどの国もお話しできるようにしてはいます。しかしながら、まったくお恥ずかしい話ですが私、イタリアワインが苦手です。実は数多の店で働いた事はあるのですが、イタリアンで働いた経験はヘルプで2~3か月しかなく、お客様にイタリアワインをサービスする経験がほぼありませんでした。更には、まったくの個人的な理由ですが、毎日ワインを商売にしているとプライベートでワインを飲むときもついつい仕事モードになる為、あえて家やプライベートでは(知識不足なので)、逆に何も考えずに飲めるイタリアワインを飲み、リラックスしていました。


しかしながら最近イタリアンでのワインアドバイザーとして働く機会を頂き、初のイタリアン勤務となってしまいました。そうなると苦手なんか言っていられなくて猛勉強。

そこでせっかくなのでイタリアワインのお話をと思ったときに、あるセミナーでの出来事が思い出されました。


何年か前にオーストラリア大使館で現代のオーストラリアの最新事情のセミナーがありまして、講師はこのセミナーの最適任者ネッド グッドウィンMW(*1)。

ご存知の方はいらっしゃるとは思いますが、オーストラリア人で日本在住者初のマスターオブワインになられた方なのですが、そのワインに対する考え方に当時の自分は非常に感銘を受け、共通の友人がたまたまいた事で、何度かセミナーに参加した時も自分のことを覚えてくれていたり、メールでアドバイスを頂くこともありました。


ただ、セミナー等では当然まっとうなことをおっしゃっているのですが、やはり日本では過激と評価されるようで、時折目が覚めるようなコメント(実はそこが好きなのですが)をされることがありました。さて、当然ながらその時のセミナーでもある発言があったのですが、今回思い出した発言がまさに今回の記事のテーマです。


セミナーも終盤で参加者から質問を受けることになったのですが、あるイタリアンに努めている方が「最近オーストラリアワインでイタリアの葡萄品種が使われたワインがありますが、例えばサンジョヴェーゼを使ったワインはキャンティ(*2)に比べて違いが伝えづらく割高で売りづらい。何かセールスポイントはありますか?」と。


ネッドの性格を知っている方も会場にはいたので、一瞬会場が凍り付く質問でした。この質問をされた方には本当に申し訳ないのですが、これに対するネッドの回答は、「何を言ってるんだ!美味しいか美味しくないかをアピールすれば良いじゃないか!」でした。


質問された方からすれば「え?」という感じでしょうが、実はネッドのワインに対する考え方を知っている方には納得の回答で、品種や国、産地などにとらわれず純粋に味に対する評価やアピールをするべしと、何度もネッドは話していました。


僕もそうは思うのですが、実際この質問を自分がされたら度胸もないので(笑)おなじ回答はできませんし、自身も明確な違いが判っているわけではないです。そこで今回は出来るだけ細かく2か国のイタリア系品種を飲み比べ、あの日うやむやになっていた自身の回答を探したいと思います。


比較のポイント

・ あくまで、どちらが優れているかでは無く、違いのみ表す。

・ 金額やレベル、状態はなるべく近いもので比較する。

・ それぞれに相性が良いと思われる料理やシチュエーションも比較する。


今回のワイン

生産者:ISOLE e OLENA イゾレ エ オレーナ

ワイン名:Chianti Classico /キャンティ クラッシコ

葡萄品種:Sangiovese, Canaiolo / サンジョベーゼ、カナイオーロ

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:イタリア

生産地:Toscana / トスカーナ州

ヴィンテージ:2015

インポーター:ジェロボーム

参考小売価格:¥3,300(税別)


生産者:Ravensworth レイヴェンスワース

ワイン名:Regional Sangiovese / リージョナル サンジョヴェーゼ

葡萄品種:Sangiovese / サンジョヴェーゼ

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:オーストラリア

生産地: New South Wales / ニューサウスウェールズ

ヴィンテージ:2019

インポーター:kpオーチャード

参考小売価格:¥3,100(税別)


まず、ワインのチョイスですが、サンジョヴェーゼを選びました。

なるべくナチュールな果実味が先行したタイプではなく、葡萄品種の味わいが感じられる典型的な物を選びました。


① のワインはイタリアのキャンティ・クラッシコです。ワイナリーのイゾレ・エ・オレーナは1950年設立のワイナリーです。ワインメーカーのパオロさんはイタリア国内では優れたワインメーカーとして知られており、本来白葡萄も入った4品種のブレンドが基本のキャンティにおいて、サンジョヴェーゼの割合を増やし、熟成に耐えられるキャンティ・クラッシコを生み出す、まさにサンジョヴェーゼの魅力を最大に味わえるワインと言えます。今回は最新のヴィンテージでは味わいの真価が図れないため、少しこなれた2015年の物を用意しました。

② のワインは今話題のオーストラリアワインです。モダンオーストラリアワインの伝説的な存在である、クロナキラのワイナリー責任者を務めた醸造家ブライアン マーティンが造るサンジョヴェーゼです。


比較の前に、少しお話を。

そもそも何故、シラーズやシャルドネで有名なオーストラリアで、サンジョヴェーゼ等のイタリア品種が使われるようになったのでしょうか?

移民が多い国として知られるオーストラリアですが、1950年代にヴィクトリア州にイタリア移民が移り住み、最初はタバコ栽培などを行っていましたが、1970年ころからブドウ栽培を始めました。当初はシャルドネやリースリングを植えていたようですが、80年を超えたあたりから、サンジョヴェーゼやネッビオーロを植え始めたようです。

当初は単純にイタリア移民が植えたからという理由で使われていたのでしょうが、今回のレイヴェンスワースのように土壌にあった葡萄を選んだ結果イタリアの葡萄品種が最適だった、という事が今の理由と思われます。


では比較に移ります。


製法


① 自社畑の葡萄を使用。15日間のマセラシオン(果皮を果汁に漬け込むこと)。ステンレスタンクでの発酵。4000リットルの大樽で1年熟成。

② 葡萄は有機栽培(認証無し)の物を使用。1000リットルの大樽で野生酵母による発酵を行います。228-500リットルフランス古樽で熟成。酸化防止剤はごく少量。スキンコンタクトは長期。エッグタンク(*3)も使用しています。


香り

① サワークリームとレッドチェリー。ドライのハーブ。なめし皮や肉

② さわやかなチェリーや赤い花の香り。香りの伸びは長い。


味わい

① タンニンは中より少し強め。酸味ははっきりしている。後口に心地よい渋さやタンニンが残る。

② タンニンは控えめで中程度。口に残るタンニンや渋さは無い。酸味も十分だが、柔らかい美味しい酸味。果実のフレッシュさが丁度よく全体的にバランスの取れた味わい。


相性の良い料理

① まさしく王道のイタリア料理。特にミートソースのパスタやハーブを加えたステーキやビーフシチューはベストと思います。

レストランでは、同様にクラシックな味わいの濃い味付けの煮込みやステーキが間違いないと思います。イタリアンレストランにはおいていてほしい一本。

②家庭では煮物や鍋物も良いと思います。焼肉や焼き鳥も悪くないですが、赤ですが爽やか な味わいが魅力なので、焼き魚なども良いと思います。鮭のムニエルなども。

レストランですが、現代風の油脂を抑えたフレンチやイタリアンには最適なワインと思います。またはフレッシュなハーブや野菜を使う東南アジア料理。


総評

今回の2本はあくまで僕の好みや考えで選んだものなので、イタリアのサンジョヴェーゼは間違いなくこの味わい。同じくオーストラリアのサンジョヴェーゼはこれと言うわけではありません。しかしながら、今までもそれぞれの国のサンジョヴェーゼをテイスティングした中での経験から今回改めて思うのは、イタリアのサンジョヴェーゼはやはり本来もっている葡萄のタンニンをある程度しっかり感じるくらい出すようです。また、ドライハーブの香りは良いものであればあるほどハッキリと感じる傾向にあります。

逆にオーストラリアはタンニンは感じますが、控えめ。ハーブのニュアンスは感じてもドライではなくフレッシュなタイプ。酸味も印象的に感じます。

結果同じ葡萄ではあっても明らかな違いがあったように思います。

どちらも良い部分はあり、イタリアはドライハーブやタンニンの存在がクラシカルなイタリア料理には最適な相性を見せますし、オーストラリアはそのフレッシュな味わいは新鮮な食材を使う現代料理との良い相性を見せると思います。


さて、最初のオーストラリアのイタリア品種のアピールの仕方ですが、通常のメイン料理との相性を勧めるのではなく、フレッシュなパスタや魚料理との相性をお勧めするか、サンジョヴェーゼのタンニンやハーブのニュアンスをネガティブに捉えている方への入門編にお勧めするのはアリかと思います。


現在オーストラリアではサンジョヴェーゼだけでは無く様々なイタリア品種を使ったワインが生み出されていますが、どれも素晴らしい味わいです。機会があれば別の品種で同じ試みをして見たいとは思います。

さて、今回の比較で自分なりの答えは見つかりましたが、出来れば「美味しいという事をアピールしよう!」という回答が出来るくらいの威厳は持ちたいと思います。(笑)


(*1) MW:イギリスに拠点を置くマスター・オブ・ワイン協会が認定する最上位資格。ワイン業界の慣例で、敬称として名前の後にMWとつける。日本人の取得者は、日本在住の大橋健一MWと、イギリス在住の田中麻衣MWの2名のみ。


(*2)キャンティ:イタリア・トスカーナ州の赤ワインで、イタリアでも最も有名な赤の一つとして知られている。主要品種はサンジョヴェーゼ。通常のキャンティのゾーンからはカジュアルなワインが多く造られ、キャンティ・クラッシコのゾーンからは、本格派のしっかりとしたワインが多い。


(*3)エッグタンク:文字通り、「卵形」のタンク。コンクリートエッグと呼ばれるコンクリート製のタンクは、その形状からタンク内で自然な対流が生じ、澱が攪拌されることによって自然な旨味が宿るという特殊な効果をもつタンクとして大きな注目を集めた。非常に高価なタンクでもある。最近は、ステンレス製のエッグタンク等も登場し、バリエーションが増えている。



<ソムリエプロフィール>

山根 宏士 / Hiroshi Yamane

フリーワインアドバイザー(現リストランテ大澤ワインアドバイザー兼マネージャー)



1976年北海道生まれ。札幌の星付きフレンチでキッチンからこの業界をスタート。以後ソムリエに転身し札幌でも伝説的なビストロ「わいんや」を立ち上げる


東京に移住後は「オーバカナル」「ブラッスリーオザミ」「アロッサ渋谷」「W.W」「ARGO」

等の様々なジャンルのレストランでソムリエ、マネージャーとして研鑽を積み現在に至る。

現在近々行われるプロジェクトに備え武者修行中


JSA認定シニアソムリエ

WSET Level 3

オーストラリア公社認定 ワインオーストラリア A+Level 2


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