星付き有名シェフの下で働く若い料理人が才能を見込まれ、みっちり修業した後に自分のレストランをオープン。
その新店、試してみたくなりますよね。
しかし、有名店で働いていたと言っても実は単に下働きしてただけだったり、師匠のコピー料理だったりで、残念ながら期待外れということもしばしば。
一方で「当たり」に出会った時の喜びもまた格別。
玉石混交の中からダイヤの原石を発見した時の喜び。これはレストラン選びでもワインでも同じではないでしょうか。
今回も一期一会、そんな当たりクジの一例をご紹介です。
生産者:ピエール・オリヴィエ・ボノーム ワイン名: トゥーレーヌ・ソーヴィニョン 葡萄品種: ソーヴィニョン・ブラン ワインタイプ:白ワイン 生産国:フランス 生産地:ロワール地方 ヴィンテージ:2019 インポーター:ラシーヌ 参考小売価格:2500円
ティエリー・ピュズラ。
筆者がナチュラルワイン(当時はビオワインという言葉が一部マニアの間で広がり始めたところ)に接する機会をもち始めたころ(かれこれ20年ほど前か)、「ロワールの若き鬼才」というようなサブタイトルで盛んに紹介されていたのを記憶している。
今では彼のワインはますます円熟味を増し、若き鬼才どころか押しも押されぬロワールの重鎮と言ってもいい地位を占めている。
そのティエリーの畑に2003年の収穫作業を手伝いに来た18歳の少年がピエール・オリヴィエ・ボノーム。多くの人員が作業に動員されていたであろう中から、なぜか二人は意気投合し正式にピエール・オリヴィエはティエリーの下でワイン造りを学ぶこととなる。
若きピエール・オリヴィエは旺盛な好奇心と並外れた体力を武器に急速にティエリーのワイン造りのノウハウを吸収し、わずか6年後の2009年にはティエリーのドメーヌ(ル・クロ・デュ・テュ・ブフ)とは別にネゴシアン部門「ピュズラ・ボノーム」を立ち上げることとに。
ティエリーと協調しながら本格的にワイン生産に取り掛かり、5年間の共同歩調を経た後、ティエリーは自身のドメーヌでのワイン造りに専念することを決意。2014年からは晴れてネゴシアン「ピエール・オリヴィエ・ボノーム」として一本立ちするに至る。
彼のワインは何度か口にして(以前このコラムでも別の銘柄を取り上げている)おり、いつも大いに楽しませてもらっている。
今回取り上げるトゥーレーヌ・ソーヴィニョン。
冷涼なロワール地方で栽培されるソーヴィニョン・ブランというと、まず頭に浮かぶ一般的なイメージはシャープな酸と硬質なミネラル。
しかし彼のソーヴィニョンは口に含むと予想に反してピーチ、メロン、アプリコットの芳醇な果実が拡がり、ソフトな酸が追従。なるほど、シュール・リー(*1)を取り入れているのがうなずける。
上品と濃厚の間にある紙一重、絶妙のバランスの上に見事にピンポイント着地。上質なブドウ、完熟したブドウを厳しく選果していることがその味わいから見て取れる。
あるいは近年の温暖化の影響でロワールはもはや冷涼な気候ではなくなってきているのか、とも推測できそうなまろやかさ。
それにしてもこのクオリティで希望小売価格2,500円。
今年度のコストパフォーマンス大賞決定。
いや今年はまだ数カ月しかたっていないか。
月間MVP決定。2021年コストパフォーマンス大賞候補ノミネート決定。
飲食店の時短営業が続く昨今、家飲みワインとして強く、強くオススメ。
偉大な師匠のDNAを受け継ぎ、さらに独自の境地を切り開いていって欲しい。今は若手注目株と目されているピエール・オリヴィエ・ボノームだが、何年か経つとロワールの巨匠と呼ばれるようになるのかも。
20年前の師匠がそうだったように。
(*1)シュール・リー:白ワインの醸造においては、発酵後すぐに澱引きを行うのが一般的であるが、シュール・リー製法では、澱を残したままにしておくことによって、酵母から様々な風味や旨味を引き出す。ロワール地方のミュスカデがこの製法では最も知られているが、世界中でも局所的に採用されるケースがある。日本の甲州も、長年に渡ってシュール・リーが広く採用されてきた。
<ソムリエプロフィール>
長谷川 憲輔 / Ken Hasegawa
1969年 大阪生まれ
1990年 大学でフランス語を専攻。フランス、ボルドー大学留学中にワインの世界に触れる。
1992年 ワイン業界入り。商品開発、バイヤー、小売りなど流通全般に携わる
2006年 ふとしたきっかけでシンガポールに渡ることになり、ソムリエとして日本料理店に勤務
2010年 ふとしたきっかけで著名なシェフ、アンドレ’チャンに見いだされ、レストラン・アンドレの開店に伴いシェフ・ソムリエ就任。シンガポール歴代首相をはじめ、多くのVIPを接客。シンガポール未輸入のユニークなワインをフランスから直輸入し、自由な発想で組まれたペアリングは高い評価を得る。
ミシュラン・シンガポール二つ星獲得、World’s 50 Best Restaurants にて14位、Asia’s 50 Best Restaurantsにて 2位ランクインに貢献。
2017年 大阪に戻りフリーランスとして、ワインにとどまらず飲食業界を幅広くサポートする活動を開始
F&B Adviser to Restaurant MUME(台北)
F&B Adviser to TAKAYAMA(京都)
F&B Director to GOOD NATURE STATION(京都)
その他、イベント企画、セミナー、講演など多数。飲食業界の発展を願いつつ活動中。