ワインボトルの栓がコルクではなくスクリューキャップというのも、すっかり違和感がなくなってきた。
スクリューキャップが初めて商業的に流通し始めたのは1970年頃だそうだが、身近に目にする機会が増えてきたのは更にその30年後くらいか。
筆者がいつどこでどんな銘柄を、スクリューキャップ栓がされたワインとして最初に目にしたのか、はっきりと記憶がないが、第一印象は「こんなものは邪道だ、安ワイン用だ」という否定的な感想をもったことは覚えている。
しかし今では若かりし自分の浅はかな先入観と偏見から、そのような感想をもったことは恥じている。
コルク栓が良いのか、スクリューキャップが良いのか。
これは当然の事ながら、一概にどちらが良いとは言えない。それぞれにメリットとデメリットが有る。(コルク栓にも天然コルク、圧縮コルク、合成樹脂などがあり、密閉栓もスクリューキャップ以外に王冠、ガラス栓など多岐にわるのであえて詳細には触れず、コルク栓とスクリューキャップの二元対比で話を単純化させていただく。)
コルク栓のメリット
・見た目、醸し出す雰囲気が良い。(→決して軽視できない点ではある)
・ソムリエの美しい所作での抜栓。(→レストランでの優雅な食事をもり立ててくれる)
・適度な通気性があってワインが美しく長期熟成する。(→古酒の楽しみは何にも代えがたい)
コルク栓のデメリット
・通気性により、ボトルごとに品質のばらつきが出る可能性。(→上記の熟成メリットと引き換えにリスクも)
・コルク臭。(→これは痛いデメリット! 最近は殺菌技術の向上でTCAの発生率がかなり下がってきている)
・開けるのに道具が必要で面倒。(→なれてない方にはちょっとハードル。慣れたら簡単なのですが)
スクリューキャップのメリット
・コルク臭は理論上発生しない。(→これは大きい。この理由で優良生産者のものや」高額ワインがコルク使用をやめる流れも)
・気密性の高さ故、ボトルによる品質のばらつきが無い。(→消費者、流通業者、飲食店、みんなハッピー)
・道具不要、手で簡単抜栓。(→一般消費者拡大に貢献度大。いつでもどこでも気軽に飲める)
スクリューキャップのデメリット
・見た目、雰囲気がお気楽すぎ(→高額レストランでボトルを開けるのにピキピキ、クルクルはやはり少し興ざめ)
・気密性が高すぎて、熟成による味わいの変化がない(少ない)。(→近年は通気性をコントロールする技術も普及しているらしい。ただしその成否を検証するには今後数十年必要か)
上記、筆者が思いつくもの以外にもメリット、デメリット、人によって状況によって色々あるだろう。
数年前、とあるポップアップワインバーで面白い体験をさせていただいたことがある。
生産者:クスダ・ワインズ
ワイン名: リースリング
葡萄品種: リースリング
ワインタイプ:白ワイン
生産国:ニュージーランド
生産地:マーティンボロー
ヴィンテージ:2020
インポーター:アサヒヤワインセラー
参考小売価格:6160円(税込み)
表題のワイン、クスダ・ワインズ・リースリングには、全く同じワイン、同じビンテージながら、天然コルク栓とスクリューキャップ栓の2種類があるという。
先入観無しで試してみたかったので、ブラインドで二つを出してもらった。
全く同じワイン、栓が違うだけ。香りや味わいに際立った違いがあるわけではないが、注意深くテイスティングしていくと同じである部分と、明らかに違う部分がだんだんはっきりと見えてきた。
1つ目のワインはきれいにフレッシュな柑橘の風味が鮮烈で、豊かな酸が爽快感を与えてくれるワイン。二番目のワインは前者同様のフレッシュさを持ちながら酸が少し丸みを帯びた感じでやや落ち着いた印象。ストレートなフレッシュさをキープしているのはやはり密閉度の高いスクリューキャップだろうとの回答は、見事正解だった。
わずか数年の瓶熟成を経過して、コルクの微妙な通気性によってこれだけの違いが出るとは興味深い。またスクリューの高い気密性をあらためて確認できた。
品質を確実にキープできるスクリューキャップと、わずかに通す空気で絶妙な風味を醸し出すコルク。やはりどちらも捨てがたい。
ところでこのクスダワインズ・リースリング、栓の違いだけを語るにはもったいない、素晴らしいワインであることは強調しておかなくてはならない。
埼玉県出身の楠田浩之氏はニュージーランド北東の南端、マーティンボローで2001年にワイナリーを設立。リースリングは世界的にも最高レベルの評価を得ているのに加え、氏の手掛けるピノ・ノワールはブルゴーニュの名だたるグラン・クリュにも引けを取らないというワインジャーナリストやソムリエが多数。近年はシラーも同様に高い評価を受けている。
日本にファンが多いのはもちろん、欧米諸国など世界各国で満遍なくそのクオリティの高さが認知されているのは、本物である証左と言えるだろう。
さて、出始めた当初は安価なワインが多かったが、時代の変化、技術の進歩とともにさらに広がっていくであろうスクリューキャップ。高額ワインのスクリューにも驚かなくなってきた。それが良いのか悪いのか、好きか嫌いか、ワイワイ議論しながら飲むのもワインを楽しむ一場面と捉えてはいかがだろうか。
ワインの世界も日進月歩。筆者がワインの世界に飛び込んだ三十年前を思い起こすと、消費されているワインの傾向も量も消費人口も、消費される場所も違うし、栓の多様化もそのうちの一つ。
今から十年後、二十年後、どのようなワインがどのように楽しまれ、新たな世界が広がっていくのか楽しみでならない。
これだからワインの世界は奥が深くゴールがない。元気に飲めるうちに少しでも多くこの楽しみを味わおう。
<ソムリエプロフィール>
長谷川 憲輔 / Ken Hasegawa
1969年 大阪生まれ
1990年 大学でフランス語を専攻。フランス、ボルドー大学留学中にワインの世界に触れる。
1992年 ワイン業界入り。商品開発、バイヤー、小売りなど流通全般に携わる
2006年 ふとしたきっかけでシンガポールに渡ることになり、ソムリエとして日本料理店に勤務
2010年 ふとしたきっかけで著名なシェフ、アンドレ’チャンに見いだされ、レストラン・アンドレの開店に伴いシェフ・ソムリエ就任。シンガポール歴代首相をはじめ、多くのVIPを接客。シンガポール未輸入のユニークなワインをフランスから直輸入し、自由な発想で組まれたペアリングは高い評価を得る。
ミシュラン・シンガポール二つ星獲得、World’s 50 Best Restaurants にて14位、Asia’s 50 Best Restaurantsにて 2位ランクインに貢献。
2017年 大阪に戻りフリーランスとして、ワインにとどまらず飲食業界を幅広くサポートする活動を開始
F&B Adviser to Restaurant MUME(台北)
F&B Adviser to TAKAYAMA(京都)
F&B Director to GOOD NATURE STATION(京都)
その他、イベント企画、セミナー、講演など多数。飲食業界の発展を願いつつ活動中。