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偶然がもたらした最高の汎用性

これを書いているのが5月28日の金曜日(ちなみに今回も〆切当日である・苦笑)、まさに9都道府県に発出されている緊急事態宣言の延長が決定する見通しの日である。いい加減にしてほしい気持ちはもちろんこの僕にもあるのだがここでゴチャゴチャとネガティヴなことを書き連ねるのもなにか違うなと思い、ワインラバーの皆さんの心の健康のために今回も美味しいワインをご紹介したい。

最も汎用性の高いワインは?」と問われると、皆さんはどう答えるだろうか。この場合の「汎用性」とは料理との組み合わせは当然としてシチュエーションや用途も含まれる。食前・食中・食後といったタイミングを問わず楽しむことができ、その際にいただく料理や空間ともマッチさせやすいものということになる。ある人にとってそれはシャンパーニュかもしれないし、別の誰かにとっては辛口のロゼかもしれない。あまりにも広義で漠然とした問いなのは承知であるが僕個人の回答としてはシェリー、特にパロ・コルタドの一択である。 いまさらシェリーについての細かい解説を、賢明な読者諸氏にぶつけるのも野暮だと思われるのでザックリと。

大きく、本当に大きく分けると辛口と甘口に分かれ、甘口タイプだと、ペドロヒメネスの時に煮詰めた黒蜜のような甘みや、ブレンドによるバランスに優れたクリームの過剰でない大人な甘みは、至福の極みと呼べる逸品である。だが今回は「汎用性」という点で一枚上手である辛口に焦点を当てていきたい。



生産者:Bodegas Tradicion / ボデガス・トラディシオン

ワイン名:Palo Cortado Tradicion V.O.R.S / パロ・コルタド・トラディシオンV.O.R.S

葡萄品種:Palomino / パロミノ

ワインタイプ:Sherry / シェリー

生産国:Spain / スペイン

生産地:Andalucia / アンダルシア

ヴィンテージ:―

インポーター:NIHON SHURUI HANBAI CO., LTD. / 日本酒類販売

参考小売価格:¥15,000 辛口のシェリーというとパッと見た感じ白ワインのようなタイプ、フィノやマンサニージャをイメージする方が多いかと思われる。もちろん僕自身も大好物で、夏にアンダルシアを訪れた際には小海老のフリットとマンサニージャを屋外で貪るようにいただいたものである。これらの所謂フロール(*1)のニュアンスのあるタイプも「汎用性」という点ではかなり優秀だと思うが、よりその凄みを発揮するのは酸化熟成を経た琥珀色を帯びたタイプたちである。有名なところではオロロソやアモンティリャードといったタイプ。もちろん今回ご紹介するパロ・コルタドもこのタイプに属する。 酒精強化したのち酸化熟成を施すオロロソ、さらにフロールとの熟成の後、酸化熟成を経たアモンティリャード。この両者の優れたところを偶発的に兼ね備えることとなったパロ・コルタドはその「汎用性」という点で全てのワインのトップに君臨すると言っても過言ではない。実際に僕が業務としてペアリングを組む場合でも、プライベートで食事を楽しむ場合でも脳裏には常にパロ・コルタドの存在がある。


オレンジを帯びた琥珀色、オレンジピールやセミドライの杏子に煎ったアーモンド、ヌガーを思わせる甘みを伴う香り。そこはかとない磯の風味。飲み口は見た目に反し軽快かつまろやか。微かなスモーキーさが複雑味を与えている。フィニッシュにやはり塩の余韻。19.5%という高いアルコールを感じさせない極めて優れたバランス。

西洋、スペイン料理はもちろんのことフランス料理でも古くから愛されるコンソメとシェリーの組み合わせにも対応できるし(フロールのニュアンスが必要とされることが多いが個人的にはパロ・コルタドも素晴らしいと思っている)、僕が主軸を置く中国料理にはシェリーと原料こそ違えど、酸化熟成のニュアンスに共通点のある紹興酒が良く合うことは広く知られているし(故にシェリーとも上手くいくことが多い)、実は日本料理にこそ合わせてほしいと常々考えているほどに旨みや自然な塩味、香ばしさといった必要な要素が散りばめられているのだ。

食前酒として楽しまれても良し、前述の通り料理との相性の幅も広く、食後にゆったりと味わうのも最高である。


ワイン造りにおいて実際にはあらゆるタイミングでの人的介入によって、あまりにも意図とかけ離れたものが出来上がることはかなり減ったものの、今なお欠陥を持ったワインが不誠実にも流通してしまっている現状は先日Somme Times主宰である梁世柱が寄せた記事ナチュラルワインという偶像アンチ・サスティナブルに明るいので是非ご一読ください。  パロ・コルタド、これだけ文明が進んだ現代においてなお、良い意味でのアクシデントに頼る酒造りがあってもいい。そう思うには充分すぎる出来栄えのワインである。皆さんも是非お試しあれ。


*1 フロール:産膜酵母とも呼ばれる。発酵中のワインの上部に膜を形成する酵母の一種で、独特の僅かな酸化的特徴と旨味をもたらす。シェリーはフロールの影響を生かしたワインとして、世界でも最もよく知られた存在。


<ソムリエプロフィール>

田代 啓 / Kei ‘Tassy’ Tashiro

ディレクター / ヘッドソムリエ

Chi-Fu


1977年大阪生まれ。

1歳のとき家族で渡米。幼少期をニュージャージー州で過ごす。


ホテルニューオータニ(主に大阪)にて7年従事、ソムリエとなる。

現在はミシュラン一つ星のアジアンフュージョン・Chi-Fuを含むグループのディレクター兼ヘッドソムリエ。

ワインディレクターとしても国内外のレストランのワインリスト作成・ペアリング考案を手掛ける。

特にアジアのソムリエとのパイプが太く、現地レストランでのコラボディナーや講演等、幅広く活動。

生産国やスタイルに捉われることなく上質なワインをセレクトするペアリングには定評がある。


コンペティションには一切の出場経験なし。


シャンパーニュ騎士団認定 シュヴァリエ

Star Wine List 日本アンバサダー

アカデミー・デュ・ヴァン大阪校 講師


<Chi-Fu>

ミシュランガイド大阪・京都 一つ星

中国料理をベースとしたアジアンフュージョン・ダイニング。

ワインリストやストックの幅広さは関西随一。

国内外問わず多くのゲストがその個性豊かなペアリングを求めて訪れる。



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