私はワインスクールで講師をさせてもらっておりますが、そんな事を常々考えます。
今企画に寄稿するのにも頭を悩ませていた頃、同じスクールで(同企画にも参加されている)井黒さんがブラインドテイスティングをテーマとした講義を始められたのを見て“これにしよう”と考えました。
【ブライドテイスティングをしてゆく過程を明かしてゆきながら、答え合わせと共にワインを紹介する】
正解であれば尚良いのですが、不正解であっても推理してゆく過程を読み物として楽しんで頂ければ良い、と思い至った訳です。
という事で早速、私の未来のビジネスパートナーでもある、「銀座おのでら」の竹澤希シェフにブラインド用ワインをお願いしました。
彼は南青山のL’ASで6年間スーシェフをされていた時代にソムリエを取得しており、かつ私とは10年来の付き合いである事から、私のワインの好みを熟知しています。
近年は娘さんが誕生し、より賑やかになった竹澤家にて、以下件のワインをブラインドテイスティングした模様をお届けしたいと思います。
※シェフには【フランスのもの】というお願いをしてやっています。
若山
「(色調)結構紫がかってて、濁りがある…。
(香り)落ち着いてない感じ、ブレット(*1)がありますね。ブルーベリーとかスミレ、シラー?
(テイスティング)あー。知ってる造り手ぽい。」
竹澤
「飲んだ事はあるかもしれない。」
若山
「プチプチしてるんで熟成から瓶詰めまでが短い、2019年…酸の性質がフレッシュだから早摘みか標高差がある。しっかり果実感もあるしMC(*2)か発酵前に低い温度でマセレーションしてる。ブレットがあるから長い歴史のある造り手か、そうでなくとも醸造の施設は古いと思います。」
竹澤
「冷たいね、冷蔵庫入れてたからだね。」
若山
「(この時点でシラーとほぼ断定しつつ)色調、果実味が抑圧的でミネラルの出方を考えると標高差か寒暖差のあるエリア。あ、でも温度が1、2℃上がるだけで印象が変わった。果実感とタンニンが出てきた…リショーとかラングロールの系列ではないですね(彼の奥さんがBMOさんに勤務している為、そこのラインナップと思っている)。」
「うーん…今BMOさんのワインでブレットも出てくる造り手ってちょっと浮かばないですね…」
竹澤
「造りを変えたらしいよ。」
若山
「ローヌ、ラングドック、ルーション…造り手が限定できないとエリアは出ない気がする…うーん。こんなに後ろ(重心が低いという意味)が強い、温度が上がったら思いの外強い。香りがしっくりこないけど、果実感とタンニンでリショー。ローヌのシラー、カリニャンのブレンド、2019年でお願いします。」
という件があってオープンされた答えはこちらでした。
生産者 : Clos Massotte / クロ・マソット
ワイン名 : Cuvve M et Tes Toi Rouge / キュヴェエム・エ・テ・トワ・ルージュ 葡萄品種 : Cinsault / サンソー
ワインタイプ : 赤ワイン 生産国 : France / フランス 生産地 : Roussillon / ルーション 地区 : Les Aspres/ レ・ザスプル ヴィンテージ : 2019 インポーター : BMO株式会社
参考小売価 : 3,850円(税込み)
サンソー。単一は出てこないだろ。笑
この【出てこない】というのは発想として、という意味です。
その理由は、
【サンソーはフランスでは主にブレンドで用いられる様に、キャラクターが際立つ品種ではない】からです。また【時間の経過と共に盛上るタンニン】は果皮の薄いサンソーの特徴には当てはまりにくかった為です。
テクニカルによると発酵前のマセレーション(温度の記載はなし)期間は一週間。短いですね。つまりサンソーとしてはやや濃いめの色調、タンニンの強さや性質から考えると
➀樹齢の高さ、収量制限、あるいは水分ストレス故に、通常より顆粒が小さく、皮が厚いブドウであった事
②果実の熟度が高かった為に、それらの性質を抽出しやすかった事
によるものなのではないかと考えられます。
うーむ。これは難しい。笑
また醸造工程においてオークを使用していなかったという事にも驚きでした。
品種を【シラー】と特定するに至った最初の要因は、このワインに僅かに感じられたブレットでした。この酵母はオークを使用しているケースでしか出会った事がなかったからです。
“ブドウに付着している”ケースより“オークに付着している”であろうケースでしか考えにありませんでした。であれば、醸造に使用したグラスファイバータンクは密閉率がやや低めなのでしょうか。確かに亜硫酸を添加する事に抵抗のある造り手であれば、どの様な熟成方法でもこの酵母が繁殖する確率は高いと考えられますが=【シラー】という概念がぬぐえなかったのが大きい様に思います。色気を感じる野性的なキャラクターと微量なこの酵母の香りは、時に絶妙なマッチングを見せますから、今回のワインからはまさにそれ、と思いたかった所為もありますね…
ただピエール・ニコラ氏の畑は平均樹齢が60年超、標高の高いエリアにある、という情報を見て思考の過程は間違ってはいなかった、と言い訳させて下さい。笑
ブラインドテイスティング、特にナチュラルワインというのは品種個性が見つけにくいものも多いので難しいですが、非常にエキサイティングな時間でした。
最後に季節の食材とのマッチングです。
これは暑くなる季節にぴったりのスパイシーなお料理との相性が期待できます。
【夏野菜】と【スパイス】をキーワードに、(ワインが)室温の状態ならばナヴァランダニョーや麻婆茄子、ドライカレーなどの家庭料理に。
冷やすと味わいがスマートな方向になりますから、ラタトゥイユ、エビとアスパラのナンプラー風味、ユッケなども良いと思います。香りに特徴があるので、パクチーをアレンジにしても良いですね。
夏が近づくと、南仏のワインが飲みたくなります。
外出をあきらめる機会も多い現状が思いの他続いていますが、まさにご家庭で手軽に作れるお料理と楽しんで頂きたい1本です。
(*1)ブレット:ブレタノミセスの略称。酵母菌の一種であるブレタノミセスは、ワイン造りの様々な段階でワインに影響を与える。適切な調和の中にある場合、「なめし革」といった表現と共に、好意的に捉えられるが、行き過ぎた場合、「馬小屋臭」とも言われる強烈な異臭の元となる。
(*2)MC:マセラシオン・カルボニックの略称。フランス・ボジョレーを筆頭に広く採用されている醸造法で、二酸化炭素を利用して発酵を進めることによって、フレッシュな味わいと安定した色調をもたらす。また、二酸化炭素には抗酸化効果もあるため、酸化防止剤を極力添加しないナチュラル・ワインの醸造においても、広く採用されている傾向がある。
<ソムリエプロフィール>
Sourire de cheucho Inc.
Sommelier
若山 程映(ワカヤマ ノリアキ)
1986年 神奈川県出身。
目黒ホテルクラスカにてサービスマンとしてキャリアをスタート。
ブルゴーニュ地方で修行経験があり、当時からシェフであった湯澤秀充氏からの影響が大きく、ソムリエを志す。
その後、赤坂のセレブールでソムリエとしてのキャリアをスタート。
銀座のレストランエール、中目黒のCRAFTALEにてシェフソムリエ、支配人として勤務。
株式会社スーリールドシュシュの本部ソムリエとして、アサヒナガストロノーム、レグリス、ランベリーに勤務する傍ら、自由が丘ワインスクールの講師や他企業のワイン監修などコンサルタント業務、プロ向けのワインセミナーなども行っている。