こんにちは。バルニバービの岩崎です。
今回は、南アフリカにおけるサンソーというブドウ品種について。
サンソーは、南仏・ラングドック地方原産の品種で、1850年代に南アフリカへ伝わったとされます。
暑く乾燥したところで良く育つブドウと言われており、逆に湿気に弱いブドウです。
実は世界中で栽培されており、南アフリカではもちろんの事、フランスのラングドック・ルーションやプロヴァンス、アルジェリア、レバノン、モロッコ、また、チリ等でも多く栽培されています。
しっかりとした房で、ブドウの粒も大きい品種として知られています。収量も多く、6トン~10トン/haが世界共通の認識だそうです。その為よく言えば経済的なブドウ品種ですが、ブレンド用の安ブドウと軽視されがちで、決して人気のあるブドウ品種とは言えず、世界的にもサンソーの畑が他の品種に替えられたという話はあちこちであります。
しかし、南アフリカでの樹齢の高い畑に関する取り組みである「Old Vine Project」への関心の高まりにより、サンソーの古い畑からワインを造る生産者が増えていることから、近年再注目されてきています。
私がサンソーの魅力に気づいたのも、2020年に南アフリカを訪問し、樹齢の高いサンソーのワインを飲んだことが大きなきっかけです。
南アフリカを代表するシュナン・ブランや、これまでSomme Times内でも他の執筆者の方々が触れている素晴らしいシャルドネやピノ・ノワールに感動したのはもちろんなのですが、これまで意識して飲んでこなかったこともあり、そのクオリティの高さにとても驚きました。
アルコールが低めで、赤いベリーやお花の香り、フレッシュな果実味とじんわりと広がる旨味。洗練されたものが多くも、どこか野性的な要素がある。
そして何より素晴らしいクオリティのワインでも価格が安い。(イーベン・サディの造るPofadderのように一部高価なものもありますが…。)
私自身、赤ワインは淡旨系が好みだということもあり、南アフリカのサンソーにすっかり魅了されてしまいました。
少し話はそれますが、私の所属するバルニバービグループが運営する店舗はカジュアルな業態が多く、提供するワインの価格はボトル売りで3000円台~、グラスワインは700円~1200円程度までなので、参考小売価格3000円台までが仕入れの中心となります。
この価格帯でワインを探すには、人気の産地や品種だけでは価格が合わないことがしばしばあります。
そんな際に、掘り出し物の固有品種や複数品種のブレンドがとても活躍してくれるわけですが、そういった意味でもサンソーはとても重宝される品種の一つだと感じました。
南アフリカ滞在時に15ワイナリーほど回らせていただきましたが、何日目かになると、『これまでテイスティングして気に入った南アフリカのワインは何?』と聞かれるようになりました。
そこで『シュナン・ブランは素晴らしいものが多いのはもちろんだけど、古木のグルナッシュやサンソーがとても印象的だった。』と答えると、彼らはとても嬉しそうに『実はうちでも造っているんだよね。』とごく少量造っているサンソーを出してくれるなんていうことも!
やはり、古木のサンソーに可能性を感じている造り手が多いのだと感じました。
様々なご縁やはからいで複数の造り手の、産地の異なるサンソーをテイスティングする機会に恵まれましたが、その中でも特に惹きつけられたのが、ドノヴァン・ラール氏が造るRall Cinsaultでした。
生産者:Rall /ラール
ワイン名:Cinsault / サンソー
葡萄品種:Cinsault 100% / サンソー100%
ワインタイプ:赤ワイン
生産国:南アフリカ
生産地:ステレンボッシュ
ヴィンテージ:2018
インポーター:ラフィネ
参考小売価格:¥4,300(税抜き)
ドノヴァン・ラール氏は南アフリカのワインメーカーの中で最も注目されている一人です。
ラール氏は南アフリカを代表する白ブドウがシュナン・ブランであるのと同様に、黒ブドウを代表するに値する品種はサンソーだと考えているとのこと。南アフリカにはまだまだサンソーの古樹が植わっている手付かずの区画がたくさん眠っているそうです
Rall Cisaultは、全房100%。ダーリンとスワートランドのブドウを使っています。
スワートランドのサンソーは、植樹1952-1982年。
スワートランドのブドウは50%、ダーリンのものは100%ホールバンチ。
テイスティングコメント:
明るく艶やかな外観。野イチゴやチェリーにラベンダーなどの花の香りにほんの少しの白コショウのようなスパイスのニュアンス。
果実味はフレッシュで透明感のある味わい。タンニンはきめ細かい。淡いけれども決して薄くなく、エキス感にあふれています。
"貧乏人のピノ・ノワール"と言われることもあるサンソーですが、このワインを飲んで感じることは、確かにピノ・ノワールに通ずる特徴はありますが、そこと比べて卑下するようなことはもはやナンセンスで、一つの品種としての個性とポテンシャルを評価し、我々ソムリエはお客様への提案に加えれば良いのではないかということです。
この他にも南アフリカのサンソーのワインでは、Naudé WinesやSavageのFollow the Lineなど、ご紹介したいものがまだまだたくさんあります。
もしこれまで体験したことがない方にはぜひ一度手に取っていただき、ワインの世界をより広げていただけたらと思います。
余談ですが、ドノヴァン・ラール氏は2メートル程もある長身で大きな体格をされていますが、その見た目のイメージに反し(失礼?)、とても細やかな気遣いしてくださる穏やかで優しい方でした。日本に来た際に弊社のカフェでお出ししているコーヒー豆をいたく気に入っていたので、お土産に持っていったら大喜びしてくれるようなチャーミングな方でした。
彼のワインを飲むと、どこかその人柄が感じられたりもします。
<ソムリエプロフィール>
岩崎 麗 / Rei Iwasaki
株式会社バルニバービ 飲料統括
1983年茨城県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、様々なシーンをプロデュースできるレストランでのサービスに魅せられ飲食の世界へ。
2012年株式会社バルニバービ入社。現在90を超える店舗のワインリストを監修する。
一店舗一業態、というコンセプトのバルニバービに合わせ、ワインリストも店舗により異なる。誰でもネットで世界中のワインを手に入れられる時代だからこそ、ソムリエというワインのプロフェッショナルの視点でのセレクト、ブランド力や人気の品種にとらわれない提案をモットーとしている。
ワインスクール レコール・デュ・ヴァンの講師も務め、ワインの裾野を広げるべく精力的に活動している。
<株式会社バルニバービ>
1991年創立の飲食グループ。
■バルニバービという名前の由来■
幼い頃、誰もが一度は読んだことのあるスウィフトの「ガリバー旅行記」。その第3篇、第4章に出てくる島の名前、それがバルニバービです。そこには研究所機関が国王の命でいたるところに設けられ、様々な馬鹿げた研究が行われていました。キュウリから逆光合成により太陽エネルギーを抽出する方法、永遠エネルギー、不老不死、蜘蛛に織らせる織物、等々…。これらの研究は絶対机上の論でなければならない、実現は堕落であるといったものでした。ここでスウィフトは当時の頭でっかちの英国の風流を痛烈に批判しているのです。21世紀を目前とした今(バルニバービ設立当時)、スウィフトの提示した「バルニバービの教訓」を踏まえ、机上の空論ではなく、実体(アナログ)を伴った真の飲食ビジネスを推進するべく、あえてこの逆説的ネーミングを引用しました。