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頑張ろうピノ・ブラン

私が栽培を開始した北海道北斗市のDue Punti Vineyardsには、植樹本数の多い順にピノ・ノワール、シャルドネ、ツヴァイゲルト、メルロー、ピノ・グリ、ピノ・ブランを植えています。ただ一番増やしていきたいのは現在一番少ないピノ・ブランなのです。何年後かわかりませんが、いつか自身で栽培したピノ・ブランで魅力あるワインを造りたいと思っています。昨今、日本ワインを生産者として牽引されてきた先輩方のお陰でブドウの苗木は昔に比べると手に入れることのできる種類が増えたのですが、まだまだ手に入らない品種があり、また品種によっては手に入るクローンが管理されておらず、ピノ・ブランの植樹はなかなかできていません。


ピノ・ノワール(もしくはピノ・グリ)から突然変異したピノ・ブランはその昔シャルドネと間違えられていたというくらい、影の薄い品種でした。品種特性は樹勢が強めで、ピノ・グリやピノ・ノワールよりも生産力が高く、凍害にも強いですが、房はコンパクトになりやすく真菌系の病気に弱いのは難点です。


そんなピノ・ブランは冷涼な気候をメインに、世界中の至るところで植樹されています。アルザス、シャンパーニュ、ブルゴーニュ、イタリア北部、ドイツ各地、オーストリア、スイス、多くはありませんがニューワールドの国々にも。国別で見れば、恐らくドイツが最もこの品種を大切に扱っている国の一つで、他国では比較的酸味が溌剌とした早飲みタイプの辛口に仕上がっていることが多いようです。とはいえ今まで個人的に一番感銘を受けたピノ・ブランの一つは、オーストリア・ブルゲンランドのPrielerが造るドライなピノ・ブランでしたし、他の国にも飛び抜けた生産者は各所に存在しているはずです。


今回自身のピノ・ブランの経験のため飲んでみたのは、イタリアで赤よりも白ワインへの愛情が感じられる数少ない地域のひとつアルト・アディジェ、ここで名声を築いた生産者カンティーナ ・テルラーノです。この生産者はピノ・ブランというブドウ品種をワイナリーと地域にとって最も重要な品種の一つとして考えており、それが本格的な醸造スタイルにも反映されています。この品種に関しては3種のワインを展開していますが、最上級は2万円超えなので・・今回はまだリアルに買える価格である2つのレンジを比較して掘り下げていきたいと思います。



生産者:Cantina Terlano / カンティーナ テルラーノ

生産国:イタリア

生産地:アルト・アディジェ

ブドウ品種:ピノ・ビアンコ

インポーター:ヴィーノ フェリーチェ

価格:①¥3,000 ②¥6,000



①Tradition ピノ・ビアンコ 2018

・収穫量 63hl/ha

・発酵  ステンレススティールタンク

・熟成  ステンレススティールタンクで澱とともに6ー7ヶ月

・手作業で収穫され、自然なデブルバージュを経て発酵開始


②Vorberg Reserva ピノ・ビアンコ 2016

・土壌  砂質粘土で下層土には55-60%の石英岩、炭酸カルシウムがないため土壌pHはやや酸性より

・収穫量 52hl/ha

・発酵  70hlと30hlのオーク樽

・熟成  澱とともに伝統的な樽の中で12ヶ月

・穏やかな全房での圧搾から自然なデブルバージュを経て発酵


香りの強度はフレッシュで第一アロマ(レモン、ピーチ)が主体の①の方が強く、酸味についてもよりしっかりと感じます。②も第一アロマ(アプリコット、レモン)が主体なのですが、こちらの味わいには①にはあまりない、まさにフリンティ!(*1)な個性が紛れもなくあり、余韻がめちゃくちゃ長いワインです。熟成中の澱との長い接触の影響もあるかもしれませんが、こういった個性は、品種はともかく石灰質を豊富に含む土壌、もしくは今回のアルト・アディジェのような特定のスレートタイプ(*2)の土壌と深く関係していると推察できます。今回は同じ生産者のレンジ違いで比較してみましたが、①②それぞれしっかりとした個性があって、ピノ・ブランへの情熱を感じる仕上がりで魅力的でした。


ちなみに北海道で造っていきたいと思っている品種がゆえ、よく気候の比較もしていますので今回の比較資料も記させていただきます(*北斗市、シャンパーニュ地方Epernayは2018年データですが、カンティーナ テルラーノ付近のBolzanoのデータのみ平均データになっています)。




雨のデータからは日本でより良いブドウを造ることの難しさが想像できるし、温度のデータからは4月と5月の温度差から、ブドウの活動開始時期が1ヶ月遅れるという北海道の特異な気候がわかります。とにかくブドウ樹が雨を感じないような工夫が欲しいところ。ここ北斗市の畑の土壌は火山性の黒ボク土の表土と密度の高い粘土の下層であるため、これらの気候の違いと土壌の特徴がブドウの実に、ワインにどう影響するのか・・・。来年はいよいよ1500本ほどのピノ・ブランの植樹を予定しているので、北斗市での生育を注視していきます。植樹するクローンはD209というピノ・ブランの2つのスタンダードクローンの内の一つ(もう一つはFR70)で、房はコンパクトで病気にかかりやすいタイプです。現在病気に強く、またワインにした時にも品質の高いクローンをドイツとイタリアから数種類輸入交渉中で、こちらは来年うまく輸入できても、1000本超えて植えれるようになるのは8年後くらいでしょうか、気の長くなる話ですが是非トライしてみたいと思ってます。ともに頑張ろうピノ・ブラン!



(*1)フリンティ:ワインのテイスティング用語で、「火打ち石」のような香りを意味する。


(*2)スレート:粘板岩の一種。ドイツのモーゼルがこの土壌で良く知られている。


<プロフィール>

井坂 真介 / Shinsuke Isaka

DUE PUNTI株式会社 CEO

1985 鹿児島県生まれ兵庫県出身

学生時代のレストラン勤務時に飲んだアスティ・モスカートでワインの世界にエントリー。その後インポーターの営業とソムリエ業をそれぞれ大阪とロンドンで、またブドウ栽培・ワイン醸造をニュージーランド、イタリア、北海道余市町で経験。2020年2月北海道北斗市で独立し自社醸造を目指している。

J.S.A.ソムリエ、WSET®︎Advanced Certificate

< DUE PUNTI株式会社 >

ワイナリー運営のため北海道北斗市に設立(2020年2月)。2021年醸造開始を目標に現在準備中。自社畑は2020年に約1.2ha分を植樹。「品質ファースト」と「広い視野」というDue Punti(2つの点)を指標に自分でも毎日飲みたくなるようなワイン造りを目指す。



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