皆様はオークションでブルゴーニュのワインを『樽』で落とせることはご存知でしょうか。11月の第3週末に、ボーヌの街はワインのお祭りになります。そのメインイベントがHospice de Beaune(以降HDB)オスピス・ド・ボーヌのオークションです。
HDBとは、1443年にブルゴーニュ公国の財務長官であったニコラ・ロランが建てた慈善病院です。ワインの畑を寄進してもらい、その収益によって運営されていました。その病院も街の中心地にあり、現在は街の観光名所になっています。実は、このオークションはブルゴーニュの価格相場に強い影響をもつ大事なイベントです。
2020年は新型コロナの影響で、開始前日に延期が発表されるなど混迷しましたが、無事12月13日に行われました。2019年の売上金額には及ばなかったものの、歴代2位の売り上げとなりました。毎年売上の一部は地元の病院などに寄付され、今年は特に新型コロナ対策のために使われるそうです。
今回は自分が以前、そのオークションでワインを落札した経験をもとに、お話をしようかとおもいます。
2012年に当店のIZAKAYA VIN社長であった父が亡くなりました。その父の名前をどうしても何かに残したく、その年のHDBオスピス・ド・ボーヌの競売で、『Corton Grand Cru Cuvée Docteur Peste』を落札しました。
生前、父はこのワインがお気に入りでよく一緒に飲んでいた思い出があったので、落札してラベルに名前を入れようと思いました。
HDBの歴史などは別枠で詳しく説明いたしますが、ここは寄進された畑を栽培し、醸造するワインメーカーです。発酵後、新樽熟成して、その樽を競売で販売します。
現場には行けなかったので、ボーヌに住んでいる友人に代理出席してもらい、電話で現場から中継してもらい入札しました。このワインは7樽売りに出ていたもののひとつです。
Lot No.280 落札価格は14,000ユーロで、2012年は前年に比べて大幅に値段が上がり、予想よりだいぶ高くつきました。歴史的な値上がりだったと報じられていました。
生産者:Hospice de Beaune / オスピス・ド・ボーヌ
ワイン名:Corton Cuvée Docteur Peste / コルトン キュヴェ・ドクトゥール・ペスト
葡萄品種:ピノ・ノワール
ワインタイプ:赤ワイン
生産国:フランス
生産地:ブルゴーニュ
ヴィンテージ:2018
Hospice de Beaune ……ワイナリー名
Corton ………AOP 畑名
Cuvée <Docteur Peste> …………畑の寄進者が<ドクター・ペスト>
Acquééreur par ………落札者。オマージュを入れたためにこの表記は略。
<Vin en Hommage à KATO Takao> 加藤隆男へのオマージュ
と落札者の名前を入れられます。
Elevé et mis en bouteille par <Domaine Lejeune à Pommard>
熟成および瓶詰業者が<ポマール村のドメーヌ・ルジュンヌ>・・・・・
ネゴシアン免許が必要となる。
落札したら、さあそれで終わりというわけではありません。熟成してくれるネゴシアンを探します。こちらは熟成、瓶詰をしてくれるネゴシアン免許があるところのみとなります。
HDBでよく見かけるのは、Albert Bichot、Louis Jadot、Louis Latour、Bouchard P & F などかなり大きなネゴシアンが担っています。
もちろん小さいところでも可能で、自分はPommard 村の中堅生産者のLejeune(ルジュンヌ)にお願いしました。
こちらの生産者はとてもこだわりが強く、HDBの樽は目が荒いとのことで、相談もなく、一年樽に移し変えてました(笑)。HDBは通常は新樽100%なのですが、新樽50%のワインということに。
2013年5月にこちらで樽試飲させてもらいましたが、今までのHDBのワインの味とは一味違い、優しい仕上がりでした。HDBは熟成業者の影響も大きくあるのだと実感しました。また自分が選んだワインが育っていく姿を目の当たりできる貴重な体験に心が震えました。こういうことができるのも自分で落札した醍醐味です。
ワインは落札後、2年程で瓶詰されてラベルを貼り完成します。普通のサイズにしようが、ハーフやマグナムを作ろうが、そこは自由ですが、手数料が上がります。今回は12本分マグナムにしました。
完成するとワインは12本、HDBに寄贈されますので、1樽300本なのですが、288本分が購入数になります。寄贈したワインのうち1本はHDBに飾られます。
その後の輸入に関しては、日本の輸入業者に代行していただき、そのまま契約している埠頭のワイン倉庫で熟成させました。
落札した金額は14000ユーロでしたが、
① 落札代行
② 熟成、瓶詰手数料
③ ラベル手数料
④ 輸入代行
⑤ 倉庫代
これらを含めて約20000ユーロとなりました。
2015年に初めてそのボトルを開けたときは、胸が詰まりました。グランクリュのワインですのでまだ若すぎましたが、生命力に溢れた素晴らしいワインでした。288本もあるので、ワインの味の移り変わりをゆっくりと楽しめ、飲む度に父のことを思い出せます。かかった金額はなかなかのものでしたが、一生楽しめる思い出の品となりました。
以上が自分HDBのオークション落札体験です。
これらのワインは自分の経営している店でお出ししています。時々個人でHDBを落札される方がいますが、288本を個人で消費するのはなかなか厳しいと思います。そんな問題を解決すべく、面白いサービスが最近出ていますね。
数本からオーダーできるらしく、思い出に残すには最高だと思いますので、興味があれば、皆様にもぜひ体験してみてください。
Hospice de Beaune オスピス・ド・ボーヌ
1443年、ブルゴーニュ公フィリップ善良王(Philippe le Bon ) の大書記官ニコラ・ロランによってボーヌの街に設立された慈善病院。Hôtel-Dieuオテル・デュー(神の館)と呼ばれる建物の中で運営されてきた。ニコラ・ロランはブルゴーニュ公国がイングランド同盟から離れ、フランスと和解させた立役者であり、王の威光を高めたと言われる権力者である。
貧しい民衆を救うために無料の病院を開いたとされるが、出世を重ねる間に犯した不正への後悔や、老齢のため神の救済に不安を抱いたためとも言われている。コルトンからムルソーの間にある、耕作地1300haの畑から生まれる収益を元に経営されてきた。そして彼の事業に同調したものも畑を寄進して、今の広さとなっている。
1451〜1971年まで520年に渡り運営されてきた。建物は美しいゴシック式で優美。ヴァンデル・ウェイデンによって描かれた『最後の審判の重連祭壇画』は、ゴシック様式絵画の最高峰の一つであり、慈善病院のもっている精神的な意義を感じさせてくれる。
ブルゴーニュのお祭り
『レ・トロワ・グロリユーズ “Les Trois Glorieuses” 栄光の三日間』
この名前はもともと1830年の7月革命を指す言葉であるが、ワインの世界では、11月第3週末のお祭りを指す。
この名称は、1934年ニュイ・サン・ジョルジュの晩餐会で、カミーユ・ロディエとジョセフ・フェヴレが結成した利き酒騎士団(ラ・コンフェリー・デ・シュバリエ・デュ・タストヴァン)によって命名された。お祭りの初日は、クロ・ドゥ・ヴージョで利き酒騎士団の祝宴が行われ、任命式などの儀式が行われる。もちろん、騎士団員とわずかな招待者のみで一般参加はできない。
二日目には今回の本題であるボーヌでオテル・デューの向かいにあるホールで競売される。これはブルゴーニュの価格相場に強い影響を持つ。
かつては蝋燭方式であり、燃え尽きたときにその競りが終わるというロマン溢れる方法であるが、不正の温床であったため現在は普通のオークション形式である。
最終日には、シャトー・ド・ムルソーにて「ラ・ポーレ」と呼ばれる祝宴が行われ、何百人ものブルゴーニュ生産者関係が集まり、華やかな宴となる。
<ソムリエプロフィール>
加藤 重信
IZAKAYA VIN 代表
家族の影響で幼少の頃よりワイン文化に触れ、1999年にフランスに滞在。
毎日のようにワイナリーをめぐる。
渋谷で唯一のシャンパンバーや恵比寿にワインバーを立ち上げ、現在は
IZAKAYA VINの代表に就任。