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ボバルが切り開く新時代

この度、世界第一号 ボバル大使に任命されました!

といきなりスミマセン。。

と言いましてもボバルって何??という方も多いかと思います。

ボバルはスペイン地場品種。今スペイン国内で最も新しい動きをしていて、まさに世界に羽ばたき始めている品種です。これからスペイン国外で目にすることが多くなるかと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。

ボバル、とは

地中海沿いマドリッド、バルセロナに次ぐ第3の都市、そして美食の港町として知られるバレンシア。そこから西へ内陸70km程内陸に入った、標高700mから900mの乾燥した台地、厳しい寒暖差、スペイン内陸の大部分が占める大陸性気候のエリアで主に栽培されています。

そこにあるウティエルレケーナは、歴史のある小さなワイン産地で、ボバルは産地全体の85%を占めています。フィロキセラの被害を受けなかった古樹も多く、他の産地が効率の良い若木に植え替えたり、国際品種化が進む中、産地全体で古樹を守る運動もしています。

果皮は厚くて硬く、タンニン、アントシニアニンといったポリフェノールを多く含み、酸も多く含む。健康にも非常に良いと言われていて、血圧の抑制や心筋梗塞の防止などの効果があると言われています。ボバルは粒が密に詰まったコーン型の房になり、乾燥に強く、芽吹きの時期が遅いことから遅霜(春先)の害にやられるリスクが少ないのもボバルの特徴。病気にも強い。まさにスペインの過酷な大地に打って付けな品種です。


長年扱いづらいとされてきた

ボバルの特徴はその大きな房。通常のワイン用品種の房の2倍から3倍、重さにして800g超まで巨大化してしまう。巨大化により、ブドウの粒が同時に完熟することは難しく、また晩熟型という性格がその難しさに拍車をかけていました。持ち前の色素も強く、酸化に強くアルコールも上がりやすい。また多産型の品種のため、長くバルクワインとして使用されてきました。フィロキセラ時にはフランスをはじめ、多くの産地にワインを輸出し手助けをしたとも言われています。


生産者:Vera de Estenas / ヴェラ エステナス

ワイン名:El Bobal de Estenas / エス ボバル エステナス

ブドウ品種:Bobal / ボバル

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:スペイン

生産地域 : ウティエル・レケーナ

ヴィンテージ:2019

インポーター:サス

希望小売価格:3520円



「世間から笑われたよ・・」

1919年設立のヴェラ エステナスも、御多分に漏れず当初バルクワインで生計をたてていた生産者ですが、バルクワインからボトルワインへの移行をいち早く考えていました。国際品種を植え試行錯誤が繰り返される中「家族や周りからは偏見の目で笑われたよ」と苦笑いしながら語ってくれ、98年あたりからはボバルに注力。そのポテンシャルにいち早く目をつけ品質を追及したボバル生産者の先駆けです。ドライファーミング(*1)をとり入れ、まずは房を少しずつ小さくし、完熟を促しました。また今世界中で叫ばれている地球温暖化も晩熟型のボバルには追い風になり、ボバルの完熟期と収穫のタイミングが合うようになりました。

自社畑32haの半分以上が50歳以上の古樹で齢80歳も使用。古樹のブドウの房は小さく、また粒も凝縮されたもので、ボバルの短所と一ずつ向かい合い、そして解決していきました。その取り組みの姿勢、ボバルの品質の向上で、2013年からベラ ディ エステーナ全体がヴィノデパゴ(畑単位に認定された原産地統制地。スペインで最高ランクに値)に認定、一気にスペイン国内で注目を集め、ワイナリーの数も少しずつ増え活性化に繋がっていきました。

ボバルはその濃い色調が持ち味で、コールドマセレーション(*2)でボバルのもつ鮮やかな色調をだし、その後14日間ゆっくりとアルコール発酵をかけていきます。そして古くからこの地に伝わるアンフォラを使用し、強くなりがちなタンニンや酸もゆっくりと角をとっていきます。

色鮮やかな若々しさを保つガーネット。香りはボバルの持ち味であるすみれ香が広がり、ボジョレーを思わせる赤いフルーツ香も親しみやすさを感じます。野苺のような赤い果実の香りに、ほのかにメントールのような清涼感、そしてアンフォラ(*3)故かハイビスカスやドライフラワー、湿った土のニュアンスもとれます。

口に含むと華やかな果実が広がり、タンニンは抑えられ、赤い果実の余韻が広がります。パエリアが生まれ、肉と魚どちらも食す風土に適した味わいです。

よくボバルは現地の生産者にじゃじゃ馬と表現されますが、ならされたじゃじゃ馬はまさにサラブレッドの風格さえ感じさせます。


テンプラニーリョだけ、ではない時代

30〜10年ほど前の注目産地は、リオハやリベラデルドゥエロ、ビエルソと行ったマドリッドから北がほとんどでした。世界的な嗜好が「アルコールが高くて濃厚な」味わいから「冷涼感でエレガント」に変わってきたせいもあるかもしれません。では南スペインはというと、一般的にアルコールが高く濃厚なワインになりがちですが、ブドウ栽培から改善に取り組み、清涼感のあるエレガントなワインを生み出すことに成功しています。その筆頭がボバルと言って良いでしょう。

地球温暖化をも追い風にして、時空を超えてその奇跡のように残った古樹、オーガニックを基本にした農法から生まれた完熟したボバルを生かすために生産者の意識を変え、その個性を損なうことなく洗練された今を表すスペインワイン。逆にその古樹の貴重さ、そして説得力が安易に走りやすい生産者の意識を変えさせたのかもしれません。

様々な料理に合わせやすいスタイルは、家族団欒を何よりも大切にするスペインで必然的に生まれた、スペインの大地からの贈り物。米、野菜、海と山の食文化を持つ日本の食卓にもふさわしいワインだと思います。日本同様、お米の文化のある産地のワインとして、お値段的にもバルでもレストランでもそしてご家庭でも楽しんでいただける、新しいワイン産地の登場です。


(*1)ドライファーミング:灌漑(水分の供給)を行わない農法


(*2)コールドマセレーション:発酵が始まらない程度の低温にブドウ果汁と果皮を維持して、色素やアロマを抽出する手法


(*3)アンフォラ:近年世界的に流行している、素焼きの土器の発酵槽。古代は運搬用や保存用としても用いられていた。


<ソムリエプロフィール>

菊池 貴行 / Takayuki Kikuchi 

ヒノモリ

シェフソムリエ


1978年 東京 深川生まれ。

大学在学中、月島の「スペインクラブ」でスペインワインに目覚める。

本場のワイン、料理を触れにスペインへ。

帰国後2004年のオープンから日本橋サンパウにソムリエとして勤務。

バルセロナのサンパウ本店での研修を経て、2006年、同店のシェフソムリエに就任。

その間スペイン政府貿易庁が主催した第1回「ICEX」(シェフ要請プログラム)の日本代表、世界唯一のソムリエとして選ばれ、2007年10月からスペインに国費留学。リオハの二つ星「エチャウレン」や南スペインの二つ星「アトリエ」で研修を積みながら、ワインの作り手と交流を重ねる。

第4回マドリッドフシオンのソムリエコンクールでは、実技試験審査員。

2010年5月、第1回の「カヴァ騎士団(シュバリエ)」に選ばれる。

2020年7月、三重県アクアイグニス内「ヒノモリ」のシェフソムリエに就任。松坂牛などに代表される地元の熟成肉や伊勢の魚介類など三重の豊かな食材に惹かれ、現職。

ワイン雑誌への寄稿やワインセミナー多数。

ワインスクール、レストランマナー講師も勤める。



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