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ポルトガル・プレミアムワイン


「世界でも最もコストパフォーマンスに優れた国の一つ」

これが、ポルトガルというワイン伝統国の、ワイン市場における現代の一般的評価だろう。


現代の、と付け足したのには理由がある。

ポルトガルと言えばポートワイン、というイメージからの脱却が、

ヴィーニョ・ヴェルデの躍進、ドゥロにおけるスティル・ワイン革命、

そして近年では、リスボン周辺のダイナミックなナチュラルワインの隆盛によって、

見事に成されたからだ。


しかしポルトガルワインが、プレミアムワインと関連付けて語られることは、今でも非常に少ない。ポルトガルでは、数々の生産者がプレミアムワインと呼ぶにふさわしい品質と高価格のワインを、20年以上前から手がけてきたにも関わらず、である。


プレミアムワインの産出国として盛り上がらなかった理由はいくつも考えられるが、その最たる理由は、ポルトガルのプレミアムワインは、他国の最先端のワインに比べ、「時差のある味わい」が非常に多かったことにある。


10年遅れている。


筆者がポルトガルのプレミアムワインをテイスティングする度に感じてきた、他国との時差である。


2020年11月18日に、「ポルトガル投資・貿易振興庁(AICEP)」が「ポルトガルワイン試飲会実行委員会」との共催した「プレミアム・ポルトガルワインテイスティング」においても、私の時差に関する印象を完全に拭い去ることは叶わなかった。


しかし、眠れる巨人と呼ばれ続けてきたポルトガルが、ついに目覚めたと確信するような、偉大な先進性と将来性に満ちたプレミアムワインが少なからず存在していたことには、大変驚いた。


これまで通りのポルトガル・プレミアムワインと、それらの新たな潮流を分けるものは何なのか。


いくつかのキーワードが見えてきたので、ワインと共にご紹介したい。



①ビオディナミ

湿潤地が多いポルトガルにおいて、多くの産地ではビオディナミの導入は容易ではない。しかし、強い志をもった少数の造り手たちが、その圧倒的に優れた品質という結果でもって、ポルトガルにビオディナミ革命をもたらす未来が来るかも知れない。

温暖化対策としても有効と考えられるビオディナミ農法は、酸の保持に期待がもてる。

また、忘れ去られたマイナー品種の復興にも、一役買う可能性が示されている。

ご紹介するワインは、「ビオディナミ x マイナー品種」の好例である。



生産者:Casal do Paço Padreiro

ワイン名:Phaunus Vinhão 2017

葡萄品種:ヴィニャオン

産地:Vinho Verde

参考小売価格:4,800円

インポーター:岸本


年間降雨量が1,200mmと非常に多く、常識的にはビオディナミに向かない産地と考えられるVinho Verdeにおいて、これほど素晴らしいビオディナミワインが存在することは、ポルトガル中のワイン生産者にとって、力強い励ましになるはずだ。

現在では、僅かに発泡し、ほんのりと甘味の残った、低アルコール濃度の白ワインの産地として、ワイン市場における確固たる地位を築きつつある産地だが、50年ほど前までは赤ワインの産地として知られていた。

固有品種であるヴィニャオンをビオディナミで育て、限りなくナチュラルに、亜硫酸の添加も限界まで抑えて醸造したこのワインは、広範囲に広がる鮮やかな芳香、絶妙なスパイス感を伴った果実味、鋭角で無骨な酸が、柔らかいテクスチャーと見事なコントラストを描く、快作である。



②混植混醸

ポルトガル・プレミアムワインにとって、彼の地固有の魅力として最大化できる最も重要な要素は、混植混醸である可能性は高い。全ての産地で、古の混植畑が産業規模で残されているわけでは無いであろうから、限られた地域においては、とだけ補足しておく。

特にドゥロやダオンにおいては、混植混醸によって、まさに圧巻の品質を誇るプレミアムワインが誕生している。

また、混植された全ての葡萄を同じタイミングで収穫するという、伝統的な方法をとった場合、相当程度の「熟度の低い」葡萄が混ざることになる。かつては嫌悪されたネガティブ要素であるが、温暖化の影響が否定しきれない現代においては、そういった葡萄がもたらす強い酸と、低い糖度によるアルコール濃度の低下効果は、温暖化対策としても有効に働く可能性が非常に高い。


生産者:Nieport

ワイン名:Coche 2018

葡萄品種:混植

産地:Douro

参考小売価格:10,000円

インポーター:木下インターナショナル


1842年に創業された歴史あるポルトの造り手であるニーポートは、傑出したスティルワインも手掛けている。ラビガド、コデガドラニーリョ、アリントといった固有品種が混植された樹齢80年を超える畑から生み出されたのは、現在のポルトガルにおける最上の一つと断言するにふさわしい、驚異的な白ワインだ。

混植混醸の副次的な効果として、「果実味が控えめになり、ワインのミネラル感が全面的に押し出される」ことがあるが、このワインもまた、巨大ミネラルの塊のごとき質感に圧倒される。それでいてアルコール濃度は11.5%。

余計なものは全て削ぎ落とされ、必要なものだけが極めて洗練された形で残ったかのような、究極的な「引きの美学」が込められた大傑作。



生産者:Casa de Mouraz

ワイン名:BOT 2015

葡萄品種:混植(黒葡萄と白葡萄の混植)

産地:Dão

参考小売価格:9,900円

インポーター:岸本


混植がより一般的であるドゥロに比べると、トゥリガ・ナシオナル(黒葡萄)やエンクルサード(白葡萄)から単一品種ワインを作ることも多いダオン。しかし、この産地においても、混植の畑は残されており、圧巻の品質と個性を誇るプレミアムワインが生まれている。

ティンタ・ロリス、バガ、ジャエン、アルヴァリーニョ、アルフロシェイロなど、7品種を越える葡萄(黒葡萄も白葡萄も)が混植された樹齢100年を超える畑。

黒白混植タイプの畑はさらに歴史が古く、現在この種の畑は世界的に絶滅に瀕していると言えるが、ポルトガルにはまだまだ残っている。黒白混植混醸のワインは、赤ワインと白ワインの両方の美点を兼ね備えた非常に魅力的なワインである。このワインも、14%というアルコール濃度を全く感じさせないほどに、飛翔感あふれるアロマと果実味が極上。控えめなタンニンと、チャーミングな酸のバランスも素晴らしく、Casa de Mourazの卓越したビオディナミ農法も相まって、まさに自然の美しさがたっぷりと込められた輝きに満ちた味わいは、衝撃的である。



③自根

フィロキセラに耐性のあるアメリカ系品種の台木と接木しない自根の葡萄は、当然甚大なリスクを背負っている。しかし、自根ならではの、伸びやかな果実味、嫌味の無い自然な凝縮感、柔和なテクスチャーと堅牢な骨格の共存は、捨てがたい魅力である。

残念ながら、ポルトガルに自根の畑が多く残されているわけでは無い。しかし、フィロキセラに対するリスクが低減される砂地の畑などで、自根に挑戦する造り手が増えてくれることを、個人的には強く願っている。否定派も根強くいる自根の効果だが、自根の葡萄による隔絶した品質のワインを味わった時には、やはりその効力を認めざるを得ないだろう。


生産者:Lois Pato

ワイン名:Quinta do Ribeirinho Pé Franco 2011

葡萄品種:バガ

産地:Bairrada

参考小売価格:24,200円

インポーター:木下インターナショナル


ポルトガル中部の銘醸地の一つであるバイラーダにおいて、「反逆者」とも罵られながら、様々な革新的挑戦を続けてきた偉大な造り手がルイス・パトである。この産地を代表する固有品種であるバガは、近年大きく注目を浴びている品種の一つ。ルイス・パトは、砂地に広がる僅か2haの畑で、自根のバガを栽培している。

その葡萄から生まれたこのプレミアムワインは、自根ならではの非常に伸びやかで開放的な芳香と、垂直方向に極めて強い推進力をもった果実味が圧巻だ。極めて凝縮しているにも関わらず、微塵も重さを感じさせない点も、自根の明確な優位点と言える。

バガはイタリアのネッビオーロと比較されることもしばしばあるが、確かに似通った点も多い。特にこのワインは、疑いようもなく、最も偉大なバローロやバルバレスコと比肩する品質を誇っている。

ポルトガルが世界に誇る、最上の赤ワインの一つ。



④ターリャ(アンフォラ)

ポルトガルではターリャと呼ばれるアンフォラも、プレミアムワインの手法として、徐々に浸透してきた。一度ほぼ途絶えてしまったとは言え、ポルトガルでは2000年以上もワイン造りにターリャを使用してきた、長い歴史と伝統がある。

ターリャの最大の特徴は、非常にニュートラルな特性をもちながらも、独特の柔和なテクスチャーをワインに付与する点にある。他国におけるプレミアムワインの手法を真似て、バリック等の使用が過度になると、「分かりやすさ」を得る代償として、「ポルトガルらしさ」を簡単に喪失してしまう可能性が高い。だからこそ、個性を重要視する現代の風潮の中では、数多くの固有品種が根付くポルトガルにおいては、ターリャの使用というのは、明確な利点となるだろう。


生産者:XXVI Talhas

ワイン名:Mestre Daniel Lote X

葡萄品種:アンタン・ヴァズ、ペルン、ロウぺイロ等

産地:Alentejo

参考小売価格:6,280円

インポーター:ポルトガル・トレード


全てのワインをターリャで仕込む、ターリャ専門のワイナリー。このワインは、複数の固有品種(白葡萄)を果皮に漬け込んだまま発酵させているためオレンジワインである。僅かに残糖を感じさせる果実味に、揮発酸由来のパッションフルーツ的な酸が交差する、魅惑的なワインに仕上がっている。ターリャならではのソフトな質感と、滋味深い味わいも極めて完成度が高く、世界でも指折りの品質のオレンジワインと言っても過言では無い傑作ワイン。













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