前稿に続き、本稿でもビオディナミの詳細に迫っていく。ビオディナミ農法とオーガニック農法を決定的に隔てるものが2つある。調合剤(プレパレーション)とビオディナミカレンダーとも呼ばれる「農事暦」の存在だ。
調合剤
ルドルフ・シュタイナーは、植物が自然に備えている力(抵抗力)を最大限発揮することを手助けするために、動物の糞や薬用成分を含む植物、特定の鉱物といった天然物のみを由来とした、極めて詳細な条件に基づく特殊な調合剤とその製法を考案した。中には、特定の植物と特定の動物の臓器の組み合わせが指定されているものまであるが、全てが特有の作用を達成するという明確な目的のために指定されている。調合剤は、シュタイナーが説く壮大で難解なエネルギーシステムと深く関連しているが、正確に理解するのは容易では無い。また、それぞれの調合剤には、関連する惑星が明示されているが、話が複雑化する上に、根拠も不明瞭、理解も容易ではなく、実践者以外には不必要な情報とも言えるため、割愛する。調合剤は、即効性が高いものではなく、効果を発揮するには下準備が必要となる。具体的に言うと、調合剤が効果を発揮するためには、畑から毒物(化学合成農薬、化学肥料)による悪影響が相当程度消失している必要がある。そのため、ビオディナミ農法に転換しても、その効果は直ぐには現れず、多くの場合3~5年の期間続けて、ようやく効果が現れる。
雌牛のツノ
後述する500番、501番の調合剤に深く関係している。なぜ雌牛のツノなのか、そこには明確だが難解な理由がある。シュタイナーの理論を可能な限り簡潔に説明すると、空洞である雌牛のツノは内部的にはエネルギーを留める役割を果たし、外部的には太陽のエネルギーとの繋がりを作り、上昇的エネルギー(雌として、生命を育むエネルギー)を生み出す役割をもつ、ということである。この理論を目の当たりにして、多くの読者が、全く疑問を拭い切れないのは当然だと思う。筆者も似たようなものだ。なので、客観性をもつために、とある実験結果についても述べておく。牛糞を瓶に詰めたものと、雌牛のツノに詰めたものを用意し、同じ条件の元、地中で熟成(発酵)させたものを比べると、雌牛のツノに詰められた牛糞の方が、微生物の活動が70倍も高かったとのことだ。