日本人女性オーナー兼醸造家としては、カリフォルニアで唯一無二の存在。
アメリカ合衆国の大統領や副大統領が主催する、国賓をもてなす晩餐会での採用。
輝かしい実績と人気を誇るFreeman Wineryが、新たにポートフォリオに加わったリースリングのキュヴェを日本国内でリリースしたため、早速レポートさせていただこう。
Freeman Wineryが拠点を置くGreen Valley of Russian River Valley AVAは、Russian River Valley AVAの南西端に位置し、急勾配の丘陵、水捌けに優れた砂質ローム土壌(ゴールドリッジ土壌)、優れた日照と海から流れ込んでくる霧の強力な冷却効果によって、ブルゴーニュ品種が特段優れたエリアとして知られている。
この地におけるリースリングへの挑戦が始まったきっかけは、Freeman Wineryの自社畑であるGloria Vineyardに隣接した、Abigail’s Vineyardだった。
2019年に、West Sonoma Coast AVA(Green Valley of Russian Valley AVAの西隣)を中心に活躍する敏腕ワインメーカーであるロス・コブと、Abigail’s Vineyardのオーナーが共同で、5.25エーカー(約2.1ha)の区画にリースリングを接枝したのだ。
最初はロス・コブ自身がそのリースリングから全面的にワイン造りを行っていたが、隣人であるFreeman Wineryにも葡萄が供給されることが決まり、かねてからフランス・アルザス地方産のリースリングを愛飲してきたアキコ・フリーマンさんの、新たな挑戦が始まることとなった。
目指したスタイルは、残糖感の無い端正な辛口。古典的アルザス流の仕立てだ。
初ヴィンテージとなる2022年は、セオリー通りにマロラクティック発酵を避けてリースリング特有の鮮烈な酸を残しつつ、シャルドネを熟成させていた旧樽で発酵させたとのこと。
さて、こういうして誕生した新たなキュヴェ、「光風 リースリング」(Sonoma Coast AVAとしてリリース)の魅力に迫っていこう。
私自身、Sonoma Coastのリースリングにはあまり馴染みがないため、アルザス地方のリースリングが特に優れたグラン・クリュとの比較で、検証していこうと思う。
まず、現在のアルザスと比べると、Green Valley of Russian River Valleyの方が冷涼である。
その点を踏まえつつ、光風リースリングに宿ったテロワールに迫っていこう。
砂岩を含む砂質ローム土壌であるゴールドリッジ土壌と似たタイプのアルザス・グラン・クリュとなれば、砂岩土壌のKesslerが思い浮かぶ。
奥ゆかしいアロマ、柔和な果実のニュアンスと強靭なミネラルのコントラスト、伸びやかな酸がKesslerの特徴だ。
そして、その特徴はかなり近しい印象で、光風リースリングにも見受けられる。
リースリングが早いタイミングで成熟に至ったことを示唆する、僅かなグリーンの入った色調。
まろやかな青リンゴ、レモンパイ、白い花のアロマに、オーシャンブリーズが彩りを添える。
滑らかで柔らかい外殻のフルーツに、硬いミネラルのコア、緻密な酸が立体的な三角錐型ストラクチャーを形成しており、しっかりとしたフェノールのタッチが、全体の輪郭を見事に整えている。
アルザスとの相違点という意味では、やはり残糖感の有無(現在のアルザス・グラン・クリュは、残糖感が出やすい)と、明確な海の影響を感じる塩味だ。
品質的には、比較対象としたアルザス・グラン・クリュ群に十分肉薄するほど素晴らしく、この地におけるリースリングの素晴らしいポテンシャルに、ただただ驚かされる結果となった。
翌ヴィンテージ以降は、醸造面でも「アキコ流」のアレンジが入るそうなので、楽しみに来年のリリースを待っていようかと思う。