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ワインで巡る火山の島々

シチリア、エオリエ諸島

イタリアには無数の固有品種や、その土地に根付いたユニークなスタイルのワインが多く存在するが、なかでも個性が際立つ火山島のワインを紹介しよう。2022年9月、私はシチリア島の北方、ティレニア海に浮かぶ美しいエオリエ諸島を訪問する機会に恵まれた。もちろん、ワイン産地視察という目的ではあったが、海、島、火山というワインに紐付くテロワールを構成する「自然」に、純粋に心踊る旅となった。


2000年にユネスコ世界自然遺産に登録されているエオリエ諸島の主要な7つの島は、次の通り。


● リパリ島

● サリーナ島

● ヴルカーノ島

● ストロンボリ島

● パナレア島

● フィリクーディ島

● アリクーディ島



シチリアのエトナ山はヨーロッパ最大級の活火山として有名だが、エオリエ諸島も海底火山の活動によって形成された島々で、ストロンボリ島では現在も活発な火山活動がみられる。今回は、ワイン造りが行われている主要3島を巡った。




マルヴァジア・デッレ・リパリ

Malvasia delle Lipari DOC

エオリエ諸島の特産品に、マルヴァジア・ディ・リパリ種から造られるパッシートワインPassito di Malvasia delle Lipariがある。収穫したブドウを約2週間乾燥させて造る甘口ワインで、1800年代「ゴールデンネクター」の愛称でメッシーナに駐留したイギリス人兵士に人気を博し、主要な輸出品となった。しかし1889年、フィロキセラの被害が島にもおよんだことでブドウ畑は壊滅的な被害を受け、ブドウ栽培は衰退してしまった。その後、1960年代になるとサリーナ島からブドウ栽培と伝統的なワイン造りが復活し、1973年にはDOCに認定されている。


マルヴァジア・ディ・リパリの起源は、古代にさかのぼって諸説ある。紀元前1580年にエオリア諸島を植民地化したギリシャ人が、この品種を持ち込んだという説や、歴史家ディオドロス・シクルスは、「紀元前588年から577年にかけて、ギリシャの植民地であったシチリアからリパリ島にマルヴァジアと呼ばれるブドウが持ち込まれた」と伝えている。マルヴァジアのワインに関しては、紀元前400年、ディオニュソスが著書「デ・ヴィニス」の中で記したことに始まる。


ところで、「マルヴァジア」は少なくとも20種類以上の異なる品種に使われている名称で、その語源は、ギリシャ南部の港町モネンヴァシアがイタリア語でなまったものと考えられている。この港は、中世には東地中海のデザートワイン、特にクレタ島やカンディア島のワインの中継地として繁栄し、それらのワインは中世イタリアの都市国家として栄えたヴェネチアでも人気を博した。ただし、この史実が伝える「マルヴァジア」が具体的に現在のどの品種の起源になっているかは不明だ。


イタリアだけでも10種類以上の「マルヴァジア」を名乗る品種があり、互いに遺伝子的に関連があるものも、ないものもある。さらには、マルヴァジア・ディ・リパリは、エオリエ諸島のリパリ島以外の島々でも栽培されており、同様に生産されるパッシートワインには、マルヴァジア・デッレ・リパリDOCの呼称が認められている。


一方、辛口ワインには、サリーナIGTが1995年に認定されている。白はマルヴァジア・ディ・リパリ、赤はコリント・ネッロが地元の品種として主に使用されるが、他にもネレッロ・マスカレーゼやカタラット、ネロ・ダヴォラなど、シチリア原産のブドウ品種の使用が認められている。




エオリエ諸島の玄関口

ヴルカーノ島

シチリア北部の港町、ミラッツォから高速船LIBERTY Linesで約40分、まずはヴルカーノ島へ。船を降りるやいなや、硫黄の香りが出迎えてくれた。島の北部に位置するレヴァンテ港からバスに乗り、一路南へ。車窓から見える景色は、火山の荒々しい山肌に、硫黄や鉄、火山灰、溶岩など色の変化で見て取れる。見晴らしの良いところでバスを降りると、円錐台状の山越しに澄み切った青い空と紺碧の海、うっすらと白煙を上げるストロンボリ島、双子の山が目印のサリーナ島、その隣のフィリクーディ島、アリクーディ島まで圧巻のパノラマヴューが広がる。

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