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マイナー品種の女王 <ロワール渓谷特集:第二章 前編>

私自身は決して好きではない表現だが、世界三大〇〇という紹介の仕方は、あらゆるジャンルにおいて、非常に一般的だ。もちろん、ワインの世界でも様々な使われ方がされてきた表現だ。一種の思考実験として、この表現を深堀してみると、今まで見えてこなかったものが、突然見え始めることがある。


まずは三大〇〇を黒葡萄に当てはめてみよう。一般論で言うならピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンは確定。三つ目はシラーあたりが妥当だろう。しかし、ピノ・ノワールが含まれることには全く異論は無いが、他の2品種には疑問が浮かんでくる。メルロでもカベルネ・フランでもなく、カベルネ・ソーヴィニヨンだけを三大黒葡萄として含めるのは、アンフェアでは無いだろうか?実際に、最高地点の品質の話をすれば、ボルドー左岸の主体となるカベルネ・ソーヴィニヨン、ボルドー右岸サン=テミリオンで重要な役割を担うカベルネ・フラン、ボルドー右岸ポムロールの主体となるメルロの三者間に、優劣は無い。シラーに関してもそうだ。シラーを主体とした最高のコート・ロティやエルミタージュと、グルナッシュを主体とした最高のシャトヌフ・デュ・パプの間に、優劣関係は認められない。


そう考えれば、そもそも三大黒葡萄というコンセプト自体が最初から破綻しているとも言えるのだ。正しくは、世界六大黒葡萄品種、とすべきだろう。


しかし、疑問はまだ止まらない。この世界六大葡萄品種、全てがフランスの品種として知られるものだ。まさにアンフェアの極みであるが、確かにこれらの品種には例外なく、世界各地で広く栽培されている、という特徴がある。その点に頑なにこだわるのであれば、残念ながらイタリアやスペインの品種に出番が回ってくることは無いだろう。


個人的にはなんとも煮え切らないが、一つ進言させていただきたいのは、ワインの品質は決して葡萄品種だけでは決まらないという、確固たる事実だ。特に、品質が最高地点まで到達するためには、それぞれの葡萄品種とテロワールの特性ごとにカスタマイズされた、品質向上のための方法論や技術が、極限まで洗練されている必要がある。そしてこの洗練とは、どのような最新の技術をもってしてもショートカットで辿り着くことはできない。長い歴史の中でトライ&エラーを幾度となく繰り返してこそ、研ぎ澄まされていくものなのだ。


少し言い回しを変えよう。この洗練とはつまり、レシピの完成度、のようなものだ。葡萄という材料を、最高のワインに仕上げるための(栽培、醸造の)レシピが存在しているかどうか。筆者は、品質の極地点に達しているかを、【葡萄品種 × テロワール × レシピ】の完成度で判断するのが、最もフェアだと考える。


その観点に基づけば、少なくともイタリアからは、ネッビオーロとサンジョヴェーゼが、スペインからはテンプラニーリョが、フランスまみれの世界六大黒葡萄品種に仲間入りを果たす。


これで、世界九大黒葡萄品種。キリが悪いので、世界十大、としたいところだが、10番目の候補は、異論が噴出することだろうし、九大に比べると少し見劣りするのも避けられない。



さて、白葡萄はどうだろうか。


一般論で世界三大白葡萄品種を選ぶなら、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングで確定だ。そして、この三大白葡萄品種は、疑問が多々浮かんだ黒葡萄に比べると、圧倒的に「固い」並びでもある。マイナー品種をこよなく愛する筆者が、どれだけ贔屓目に見たとしても、現時点で【葡萄品種 × テロワール × レシピ】の完成度において、この3品種と並び立つ白葡萄は思い浮かばない。(筆者にとっては)オプション要素的な、世界各地への分布に関しても同様だ。


しかし今、この三大白葡萄の強固な牙城を崩そうとしている品種がある。その品種こそ、本章の主役である、シュナン・ブランだ。

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