top of page

New York Wineレポート Part.1

SommeTimesでは、たびたびNY州のワインを取り上げてきた。


筆者がNYで長年ワイン修行をしていた縁、ではなく、単純にこの産地が面白く、そして素晴らしい可能性を秘めているからだ。


現在NY州には、以下の11つのAVA(American Viticultural Area)がある。


Finger Lakes AVA

Cayuga Lake AVA (Finger Lakes AVA内)

Seneca Lake AVA (Finger Lakes AVA内)

Long Island AVA

North Fork of Long Island AVA(Long Island AVA内)

The Hamptons, Long Island AVA(Long Island AVA内)

Hudson River Region AVA

Upper Hudson AVA

Lake Erie AVA(オハイオ州、ペンシルヴァニア州にまたがる)

Niagara Escarpment AVA

Champlain Valley of New York AVA


©️New York Wine and Grape Foundation


意外とある、と思う人も多いかも知れない。


それもそのはず、現在日本で流通しているNY州産ワインの大半が、Finger Lakes AVA(及びその小地区AVA)とLong Island AVA(及びその小地区AVA)のものだからだ。


Hudson River Region AVA内には、現存するアメリカ最古のワイナリー(1839年創業)のブラザーフッド・ワイナリーがあったりもするが、生産量と品質の両面で見れば、やはりNY州を現時点で代表する産地は先述したFinger Lakes AVAとLong Island AVAで間違い無いだろう。


中でも、「世界的規模で比較しても、十分な独自の個性を発揮している」という意味では、Finger Lakes AVAが筆頭として挙がる。



Finger Lakes AVA

NY州を象徴する大都市マンハッタンから、車で約6時間という距離に、Finger Lakes AVAがある。


Finger(指)Lakes(湖)とあるように、11の湖を取り囲むように広がっている産地だが、その中でも重要なのは3つの湖。


Cayuga(カユーガ)Lake、Seneca(セネカ)Lakes、そして Keuka(キューカ)Lakeの3つだ。


前者2つは独立したAVAともなっているが、Keuka Lakeもこの産地にとっては重要な湖となる。


大陸性気候に属しているため、暑い夏と非常に寒い冬が特徴だが、この地で高品質な葡萄栽培を可能にしている唯一無二にして最大の要因こそが、湖の存在なのだ。


水量が非常に多いこれらの湖は、外気温がマイナス20度にも達する冬季においても、一切氷結しない


そして、この凍らない湖は、その周囲に「Lake Effect」と呼ばれる、強力な気温変動抑制効果を及ぼす。


その効果は湖に近いほど強くなるため、湖に近いエリアでは暖かい冬と涼しい夏、離れたエリアでは寒い冬と暑い夏、という真逆に近いマイクロ気候が形成される。


Finger Lakes AVAでは、このマイクロ気候の違いに基づいて、適品種の研究がなされてきたのだ。


例えば、シラーやシャルドネ、ピノ・ノワールなどの品種は湖に近いエリアで、冬季耐性の高いリースリングやカベルネ・フランなどはある程度離れたエリアで、としっかり棲み分けが進んでいる。




Finger Lakesの適品種

リースリング

長い間、Finger Lakes AVAの評価を押し上げてきたのは、リースリングだ。

ドイツのライン川沿いにもよく似た気候、そして、同地のテロワールを構成するスレート土壌にも良く似た、Finger Lakesの頁岩(Shale)土壌。


気候と土壌の組み合わせによって、Finger Lakesのリースリングは、「ニューワールド産地の中で、最もドイツに近い」と評されるようになった。


リースリングのスタイルは、辛口から極甘口まで幅広く、品質も非常に高い。


ドイツ産リースリングが、相変わらずコストパフォーマンスが高過ぎるため(近年、ようやく価格上昇し始めた)、なかなか並び立つ存在にはなれていないが、オルタナティヴな選択として、十分過ぎるほどの価値がある。






ブルゴーニュ品種

ピノ・ノワールやシャルドネといったブルゴーニュ品種は、「冷涼気候品種」というイメージに反して、寒過ぎる環境で生き残れるほどの冬季耐性が無いため、湖に近いエリアで栽培されている。


気温変動が強力に抑制された環境では、芽吹きから収穫までの期間が非常に短くなる(生育期間が短い)と同時に、昼夜の寒暖差も少なくなるため、葡萄がノンストップで成長し続ける


短い生育期間とノンストップの成長、この要素が掛け合わされると、糖度は低い(アルコール濃度が上がらない)が、フェノール類はしっかりと熟す、という個性が出来上がる。


温暖化とワインのライト化、という相反した傾向に世界各国の産地が頭を抱える中、非常にポテンシャルが高いテロワールと言えるだろう。



シラー

湖に限りなく近いエリアでのみ栽培可能となるが、シラーもまた魅力的だ。


シラーが本来冷涼気候品種であることを、はっきりと感じられるような抑制的個性があり、ニューワールド産シラーの中でも、非常に北ローヌ地方に近い性質となる。


まだまだ栽培面積が少ないが、高いポテンシャルを秘めている。



ハイブリッド

元々、ハイブリッド品種の栽培が盛んだったFinger Lakes。現在でも「名残り」と表現するには少々数が多い程度には、それらの品種が残っている。


ハイブリッド品種が、テロワールに適したヴィニフェラを超える品質領域に入ることは、基本的にあり得ないと考えて差し支えないが、減農薬(もしくは無農薬)への耐性が高く、高収量で安定させられるハイブリッド品種には、サスティナブル適性が非常に高いという側面がある。


まだまだ少数派ではあるが、ハイブリッドとヴィニフェラをブレンドすることによって、ハイブリッドの欠点を補いつつ、高い経済的安定性を得る、という試みもなされている。日常飲みのカジュアルワインとしては十分な品質に到達しつつ、価格も抑えられることから、高い期待が寄せられている。



カベルネ・フラン

ここまで紹介した葡萄品種のどれもが、かなり高いポテンシャルを発揮しているが、そのどれもがカベルネ・フランの境地には至っていない。


そう、Finger Lakesを象徴する、この地で最も優れたワインとなる葡萄品種は、カベルネ・フランなのだ。


カベルネ・フランの品種特性であるピラジンによる「青い味わい」は、ロバート・パーカーJrの影響力が強かった時代は世界的に嫌われていたため、その特徴が強く出るFinger Lakesのカベルネ・フランもまた、長き不遇の時代を過ごしてきた。


しかし、多様性と個性が尊重される時代に入り、Finger Lakesらしい個性もまた、その価値が急速反転するかのように上昇した。


現在、世界各地を見回しても、カベルネ・フランの品種特性を、決して嫌味が無い形で表現することができ、低め(最大でも13%強)のアルコール濃度、調和の取れた構造と複雑性を兼ね備えられる極めて限られた産地の一つが、Finger Lakesなのだ。


別の言い方をしよう。


古典的価値観において、Finger Lakesのカベルネ・フランは世界最高の一つなのだ。




Part.2 では、3月に来日したNY州の生産者たちのストーリーも含め、具体的なワインのレヴューを行なっていく。

bottom of page