酸味とは全てのワインに共通する味わいの要素です。
また、酸味はペアリングにおいて最も重要度の高い要素であり、ワインの酸と料理に含まれる様々な味わいは、時にシンプルに、時に複雑に絡み合いながら、最終的なペアリングに影響を及ぼします。
ワインの酸が料理に対して及ぼす影響は、大きく分けて3つのカテゴリーに別れます。
1. カット(清新)
最も基本的かつ、重要な作用です。
ワインの酸は、料理の以下の要素を「カット」することによって、ペアリングした時に爽快感をもたらすことができます。
① 塩分
② 油分
③ 脂肪分
④ スパイス
① の塩分は非常に重要です。基本的には、料理の塩分が強いほど、正しく「カット」するためには、ワインの酸味が高くなる必要があります。「比例関係」と覚えましょう。調理過程で使った塩は、粗挽きして振り掛けた岩塩よりも、間接的に味わいに作用するため、ワインの酸は低めでも大丈夫です。料理と合わせた時に、ワインが酸っぱく感じた場合、この法則を利用して、料理に塩を振るという手段で、バランスを取ることもできます。
シーフードパスタの塩分に対する「カット」
② はあらゆるオイルに由来する要素に対する「カット」の効果です。ドレッシングに用いたオイル、揚げ物に用いたオイル、アヒージョやコンフィといったオイル調理などに対して、ワインの酸は爽快感をもたらす役割を果たします。オイルに対するワインの酸とよく似た効果をもつ要素として、スパークリングワインの「泡」は、酸味と相乗して強い「カット」の力をもちます。
天ぷらの油分に対するカット
③ は動物性の食材に由来する脂肪分への「カット」の効果です。この作用は基本的に「比例関係」にあります。牛肉を例にとると、霜降りの場合は酸の高いワインで、赤身の場合は酸の低いワインで合わせると良いでしょう。
脂肪分の低い赤身肉に合わせる時は、酸の低いワインで
④ はスパイスに対する「カット」の効果ですが、ワインの酸が対応できる範囲は限定的で、基本的には「軽度のスパイス」までが対応範囲です。しかし、スパークリングワインの場合は、酸と泡の相乗効果により、この作用の力をより強めることが可能です。
本格的なスパイスカレー等を「カット」するのは困難
2. ハーモナイズ(調和)
カットに次いで重要な作用です。
料理を構成する要素の中に、はっきりとした酸味がある場合(ヴィネガードレッシング、柑橘系の果汁、ドライトマト等)、料理とワインの酸味を限りなく近付けることによって調和に到る、「ハーモナイズ」の作用が働きます。
ワインの酸が料理の酸を大きく下回った場合、ワインの味わいが薄く感じ、苦味が生じます。ワインの酸が料理の酸を多少上回るのは大丈夫です。
料理の中にワインの酸が「カット」できる要素が少なく、またワインの酸が大きく料理を上回っている場合、レモン果汁を絞る等の手段で、バランスを取ることも可能です。
トマトソース等の酸味もハーモナイズの対象
3. ハイライト(強調)
酸の効果の中では、最も重要度が低いものですが、使い方を間違わなければ、有効に働くこともあるのが、「ハイライト」と呼ばれる作用です。
基本的には、淡い味わいの食材や料理に対して、ワインの酸がそれらの特徴を際立たせる役割を果たします。
ただし、複雑な味わいのワインは、食材や料理の繊細な淡さを覆い隠してしまう為、「ハイライト」の手法を用いる場合は、ステンレスタンク発酵等のシンプルな味わいの構成要素のワイン、酸の高いものが有効です。要素が複雑になりがちな高級ワインは、「ハイライト」には不向きです。
シンプルな料理にレモン果汁を絞るという食べ方の、レモン果汁をワインに置き換えた手法とも言えます。
お刺身とワインの組み合わせはハイライトの好例