2021年に入ってしばらく経過したが、長野は12月中旬の初雪から継続して雪が降り、畑は2月の中旬を過ぎても雪に覆われていた。日本都市部、世界各国、かわらず新型コロナウイルスの影響で苦しい状態が続いているが、今年はどんな年になるのか、昨年の自然災害、地球気候危機に直面している現状を考えながら、いま自分に何ができるか、何をすべきか真剣に模索している。
世界で多発する自然災害、現在危機を迎えている気候変動、これらはこの地球に生きる全ての生き物にとって深刻な問題だ。自然生態系における「循環」を崩す人間社会が存在する限り、そこで暮らす全ての人がこの問題に関係している。
今回は、この気候危機を改めて見つめ直し、環境破壊に大きな影響を与えている「農業」の在り方について考えていきたい。
2020年に発生した自然災害
昨年、世界各地で多くの自然災害が発生した。
・オーストラリア火災(2019年9月から2020年2月)
オーストラリア東部のビクトリア州とニューサウスウエールズ州をまたいで発生した大規模火災、消失面積10万㎢以上(※韓国面積 約10万㎢)、哺乳類、鳥類、爬虫類など10億以上の生命が失われたと推定、NSW州では約5万匹いたといわれるコアラの内、約3万匹が死んだと言われている。
・カリフォルニア火災(2020年8月から10月)
相次ぐ落雷によってカリフォルニア州北部の別々の場所で発生した小規模の山林火災が燃え広がって大規模火災へと発展、2020年だけで8,200件、8,400戸を超える住宅が焼失し、消損面積16000㎢を超える大規模火火災となった。(※日本四国面積 1万8,000㎢)8月16日デスバレーで54.4℃、9月6日にはロサンゼルス郡で49℃など多くの地点で観測史上 最高の気温を記録。
・アマゾン火災
7~10月の乾季山林火災、放牧地や畑を作るための野焼きを原因とするものが多発しているが、過去50年程で最悪とされる干ばつが山林火災を起こりやすくし被害を拡大させている。世界最大の湿原パンタナールでも、山林火災が多発し1月から9月中旬までにおよそ15,000件発生し観測史上最も多い約1万9,000㎢を焼失。アマゾンはブラジル国境を越えて広がるため、周辺国のベネズエラ、ボリビアでも山林火災が多発している。
・ジャカルタ洪水(2020年1月)
一晩で400ミリ近い豪雨が降り、ジャカルタと首都圏全域で鉄砲水が発生し主要河川が氾濫。この豪雨によって、少なくとも66人が死亡し、約4万人が避難を余儀なくされた。
・米国ミシガン州洪水(2020年5月)
州中央部のトライシティーズに大雨が降り、2日後にはミッドランド郡で大規模な洪水が発生。蓄積された雨水が河川や小川を増水させ、一帯を浸水させるほどの壊滅的なダムの損壊を引き起こしました。州政府はエデンビルとサンフォードの1万人以上の住民に避難命令。
・中国洪水(2020年5月15日から7月)
中国の中南部で豪雨により発生した大規模な洪水。中国全土で130以上の河川が警戒水位を超えて、洪水による死者は少なくとも141名に達し、被災者数は7000万人以上に上った。毎年大規模な洪水が発生している中国だが、気候変動による極端な気象現象による洪水リスクは今後さらに高まる可能性が高い。
・日本7月豪雨(2020年7月)
7月3日から7月31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で集中豪雨が発生、またその後7月25日の埼玉県三郷市の竜巻、7月28日からの東北地方での大雨により被害が拡大した。これらの災害を含めた被害は、8月4日現在で全国34県に及び、人的被害114名(死者82名、行方不明4名、負傷28名)、住家被害17,898棟(全壊272棟、半壊579棟、一部破損914棟、床上浸水7,756棟、床下浸水8,377棟)。
気象庁によると7月上旬降水量の総和、1時間50mm以上の降水が発生した回数が1982年以降最大、また3日から14日(12日間)の全国の総降水量が平成30年7月豪雨(11日間)を超えたとしている。
・アフリカ
乾燥、洪水、バッタ大量発生による甚大な農業被害。これら多重苦による深刻な食糧不足、飢餓。
・アメリカ・フロリダ州
遠くない将来、気候変動の影響で、洪水の増加や土地の水没が予想される。
かつてならば100年に1度と呼ばれた類いの異常気象が毎年、世界各地で起きるようになっている。
これら自然災害の大きな要因がCO2増加による地球温暖化、気候変動であるのは言うまでもない。
なぜ地球温暖化が進むと、こうした異常気象が増えるのだろうか?
それは、温暖化で暖められた陸や海から蒸発する水分、大気中の水蒸気が極端に増える事によって起きている。
通常、陸や海からは水分が大気中に蒸発し、やがて雲を作り雨になって循環している。ところが温暖化が進むと蒸発する水分が大気中に大幅に増え、それが豪雨をもたらし、洪水や土砂崩れにつながる。一方で水分を奪われた陸地では乾燥化が進み干ばつや火災のリスクが増す。さらに海水が蒸発する時に奪う熱が形を変えて大気を運動させるエネルギーになるため、台風などの暴風雨が強く発達しやすくなる。
このように温暖化が進むと猛暑だけでなく、雨が降る所では豪雨災害が深刻化し、降らない所では干ばつが深刻化と両極端な現象をもたらしやすくなると考えられている。
プラス1.5度
ご存知の方もいると思うが、これは温暖化の連鎖が止められなくなる温度のことで、産業革命前からすでに1度上昇している地球の平均気温が、もし今後1.5度を超えてさらに上昇すると、北極の氷の融解が止まらなくなり温暖化が加速し、それによってシベリアの永久凍土もとけ、温室効果ガスのメタンが放出、さらにアマゾンの熱帯雨林が消失するなどしてドミノ倒しのように気温が上昇し続け元に戻れなくなるという指摘だ。ポツダム気候影響研究所 共同所長 ヨハン・ロックストローム氏は早ければ10年後にも1.5度に到達すると警告している。
「温暖化時計」
日本メディアではあまり報道されていないため危機感がなかなか生まれない状態だが、実際に「気候危機」はすでに始まっており、近い将来、人間の力では止められなくなってしまう可能性すらある状況だ。
私たちの住むここ日本は、世界で2番目に気候変動のリスクを負う国だそうだ。島国である日本は海面上昇によって多くの場所が冠水するとも言われている。今後の台風巨大化、豪雨被害拡大、漁業、農業への影響、低食糧自給率による食糧危機など、大きな被害が出る可能性は高い。
しかし、世界では二酸化炭素排出量が毎年増え続けている。日本を含む排出量上位5カ国だけで、世界全体の60%近くの二酸化炭素を排出している。
工業
14世紀イギリス工業発展による石炭使用、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命(工業化)以降の更なる石炭の大量使用による大気汚染、19世紀半ばから20世紀初頭(第二次産業革命)石油燃料を用いた重工業の機械化・大量生産化、20世紀末の冷戦終結後に急速に進んだ経済のグローバル化による市場規模拡大による二酸化炭素排出量の激増。産業革命以降、特に第二次世界大戦後の人類の経済活動の急成長に伴って環境への負荷も急激に増大している。
農業
第二次世界大戦後(1945)の本格的な化学合成農薬の利用開始(ハーバー・ボッシュ法による窒素肥料合成の本格化と余剰窒素による環境汚染)、「緑の革命」(1940年代-1960年代)による化学肥料の大量投入、1970年にアメリカ企業のモンサントが開発した除草剤グリホサート(商品名:ラウンドアップ)の普及。現在の窒素肥料依存。それらによる生態系への悪影響、地下水河川や海洋汚染。
気候変動の大きな要因となっている酪農、畜産から発生するメタンガス。人間が食べる食肉の飼料を栽培する為には広大な土地が必要となり、それが森林伐採、野生地への侵入と生息地破壊を引き起こす。二酸化炭素を吸収、酸素をつくり出してくれる自然植物や野生動物の生息地を破壊してまでして作っているものが食肉用の飼料。世界中に飢餓で苦しむ人が多くいる中、信じられない世の中だ。
人間圏の圧力に悲鳴をあげはじめている地球生命圏の声が、天空から海原から、そして大地から聞こえてくる。 天空からは温暖化、オゾン層破壊、酸性雨、大気汚染などの悲鳴が、海原からは冨栄養化、エルニーニョ現象、赤潮、青潮、原油汚染、浮遊物汚染、海面上昇などの悲鳴が,大地からは土壌侵食、砂漠化、重金属汚染、地下水汚染、熱帯林の伐採、鳥インフルエンザなどの悲鳴が聞こえてくる。地球生命圏ガイアの悲鳴は、いまや慟哭に変わりつつある。(陽 捷行氏)
世界の人々へ食糧を供給している農業だが、実際には自然環境へ大きな負荷をかけているという事実がある。
SommeTimesの記事をお読みになっている方々の多くは、ワインに大きな関心をもたれている方々だと思うが、ワインも然り、大規模生産によって地球に大きな負荷をかけながら、持続不可能なブドウ栽培を行っている生産者も多く存在する。
ワインはあくまでも嗜好品。人々に感動を与える素晴らしい飲み物ではあるが、極端に言えばアルコールがこの世に存在しなくても人間は生きていける。そう考えると、絶対に必要でないものを生産する為に、地球を汚染し、負荷をかけてまで作る必要があるのだろうか?とも思ってしまう。
化学農薬、化成肥料、除草剤、灌漑でブドウ(植物)を育てる事は比較的簡単だ。しかし本来、自然に存在する植物は自らの力で生育する。森に育つ植物達がまさにそうだ。
植物は太陽光、二酸化炭素、水をもとに光合成により自分が生きるための養分(糖)はつくり出すことができる。この糖をもとに植物のからだをつくる細胞(タンパク質や炭水化物)を合成するが、しかし、そのために必要な窒素やリンなどを自らの力で直接吸収する事ができない。この植物の必要物質を吸収できる状態にしてくれるのが土壌中にいる微生物であり、植物は微生物に糖や有機酸を与え共生している。土壌中に微生物が豊富に活動出来る土壌環境(有機物含む)があり、太陽、空気、水があれば植物は大きく生長出来るということだ。
植物が根の先端から有機酸を出しながら土の表層(作土)にたくさんの根を伸ばしていくと、土壌微生物が根の周囲に集ってくる。その微生物と植物の根が土中で繋がり共生関係を結ぶ事によって植物は自分の根が届く範囲よりも広範囲から養水分を集めることも可能になる。通気性がよく、適度な水分を含む団粒構造の土には多くの微生物と植物の根がお互い活発に活動しあい養分のやりとりを行っている。
目に見えない土壌の中はまるで小宇宙、様々な活動がドラマチックに展開されている。
かたや、効率重視の大量生産を行う現場では、除草剤、化成肥料の大量使用により雑草一つ生えていない、まるで砂漠のような土で植物が栽培されていることもある。雑草対策のための除草剤散布により土壌中の微生物の数や種類は激減し、植物はその少ない微生物から必要な養分を充分に吸収することが出来なくなる。人間が代わりに必要物質を植物に化成肥料として与えてやらなければならないわけだが、人間で言えばサプリメントだけで生きていくようなものだ。
土中の微生物は雑草根の激減、餌となる有機物の極端な不足、化成肥料養分による共生関係不結合などにより、ますます棲みづらい環境になっていってしまう。こうして地力がどんどん低下しバランスを失うと、植物自体の健康までもが低下し、害虫が異常発生したり病気が猛威をふるったりと、ますます化学の力に頼らざるを得ない状況に陥ってしまう。環境に負荷をかけ続けないと成り立たない農業。これがまさに近代農業における持続不可能な「不の循環」だ。
持続可能な社会を取り戻すために
このような不の循環を断ち切るために、長年に渡って、世界中から様々な声が上がっている。一つずつ、丁寧に紹介していこう。
環境、社会、文化の多様性を目指す「アグロエコロジー」
“agro-”(農業)と“ecology”(生態学)の2語を合わせた造語。
「アグロエコロジーは環境面だけでなく、経済、社会、文化の多様性、生産者と消費者の主体性の向上を目指すものであり、現行の農業食料システムで破壊されてきたものを取り戻すための試みである。」(久野秀二教授)
ある生物や植物が、他の生き物や環境の中で互いにどのような関わりを持って育ち、どのような多様性の中で生きているか、を明らかにする学問(生態学)と、自然界の有機的なつながりとバランスを保つことで、自然本来の再生能力を持続させる考え方(エコロジー)。
要するに、現在なされている工業型農業とは本質的に異なるもので、化石燃料をわずかしか使わず、化学投入資材にも依存せず、生物多様性を強化し、循環を促進し、生態学的な機能を最大限に発揮させることで病害虫を抑制し、自然と調和しながら食料を生産していくということ。(参照:HATCH update: 2020.09.29)
リジェネラティブ・オーガニック農業
「従来の農業は、気候危機を深化させている炭素排出量の最大25%を占めています。リジェネラティブ・オーガニック農法は、地中に炭素を戻す一助となる健全な土壌を構築します。これらの農法は従来農法に比べ、大気からより多くの炭素を隔離することのできる健康な土壌の構築を促進します。このため、農家は数千年も前から多種多様な方法を使用しています」
(アウトドアブランドPatagoniaの取り組み)
「小農権利宣言」と「国連家族農業の10年」
2017年12月20日の第72回国連総会で、2019から2028年の10年間を国連の「家族農業の10 年」(UN Decade of Family Farming)とすることが全会一致で決定された。この決定は、国連加盟国に対して家族農業を中心とした農業政策の策定を求める国連の啓発活動であるため、2019年からの10年間に国連加盟国は具体的な政策対応を迫られることとなる。
またさらに2018年12月17日の国連総会では「小農民と農場で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」が採択された。(賛成 121・反対 8・棄権 54、日本は棄権。)
家族農業や小規模農業を見直していく国際的な動きが現在高まりつつある。
世の中には、持続不可能な自然破壊を伴う農業もあれば、持続可能で自然を敬い、生態系バランスを考慮、さらに大気中二酸化炭素の循環をも考慮する農業もあるということ。そして、大規模ではなくより小規模へ、農だけでなく社会全体が縮小へ向かうべきではないだろうか。
大量生産、大量消費、使い捨て。
資本主義による資本の無限価値増殖による限度無き資源の搾取収奪。
環境危機が深刻化しても、まだひたすら追い求める経済成長。
我々には、しっかりと向き合う責任がある。
「Fridays For Future 」(気候のための学校ストライキ)
15歳の時に、グレタ・トゥーンベリが一人で行った抗議活動。2018年の国連気候変動会議で演説して以降、学生ストライキは毎週世界で行われ2019年は、それぞれ100万人以上の学生が参加している。
「No Future No Children」(未来がなければ子どももいない)
2019年カナダ在住の18歳少女が「政府が環境危機対策にしっかり取り組み、安全な未来を約束するまで、子どもをつくらない」と宣言し、開始1カ月で若者を中心に5千人以上が賛同したキャンペーン。
気候変動による未来を恐れる若者達が世界中で声を上げる中、大人達は今何をすべきなのか。
ワインを選ぶ時に考えて欲しい。
原料のブドウはどこでだれにどのように育てられたのか?
全てとは言わないが、出来る限り環境負荷のない栽培方法で育てられたブドウを原料につくられたワインを選んで欲しい。
一人の力は小さいが、それが多く集れば必ず大きな力となる。
福岡正信「わら一本の革命」(1983年 初版発行)
「地球規模での砂漠化、緑の喪失が深刻化している中で、かつて風光明媚を謳われた日本列島の緑も今、急速に枯渇しようとしている。しかし、それを憂うる者はあっても緑の喪失を惹起した根本原因を追究し撃破する者はいない。ただ結果のみを憂い、環境保護の視点から緑の保護対策をとなえる程度では、とうてい地上の緑を復活させることはできない。飛躍し過ぎた言葉ともとれようが、地球の砂漠化は、人間が神なる自然から離脱して、独りで生き発展しうると考えたおごりに出発するものであり、その業火が今、地球上のあらゆる生命を焼き亡ぼしつつある証(現象)だと言えるのである。」
「先頭に立って自然を破壊してきた驕慢な人や耕人たちが、今反転して、森の守護人となり、緑を復活できるか否かにかかる。」
後藤伸「明日なき森」(氏の講演1998〜2002の編集本)
「地球の誕生から46億年。その水溜りで発生した生命の誕生から38億年。やがて生命が岩石の陸上にあがり、その生命活動によって土をつくり、多種多様の生物が生まれていった.. いのちの悠久の歴史が熊野の森にも刻まれていました。しかし、戦後の拡大造林がそれを一気に壊していきました。この40〜50年で消え去った生命とその営みのなんと多いことか。人類の歴史は、自然破壊の歴史で、ことに産業革命以後、生命の共生という掟を完全に念頭から外した人間たちは、戻す方法を知らないまま、どんどん自然を壊していったのです。
巻き枯らしで赤茶けた杉の向こうからかすかに聞こえてくる生命の歌声に耳を傾けながら、私は今後もこの作業を続けていきたいと思っています。」
古賀綱行「野菜の自然栽培」(1986年 初版発行)
「生まれた以上は、自然植物を栄養として生きていく。年につれ最後は、自然の掟にしたがって土にかえっていき、植物の栄養と化す。自然界皆よくできている。動・植物あらゆる物を食ったそのお礼に、また自分の全ての栄養をお返し申し上げて消えていくまでのことだ。」
ロレンツォ・コリーノ「ワインの本質」(2019 日本語訳)
「土壌や地下水、ひいては生産者と消費者の健康にも影響を及ぼしかねない単一生産。今や大量生産など目指す時代ではない。それは酪農や畜産、穀物栽培やワイン生産などでも大量生産システムはすでに破綻していることから明らかなはずだ。
有機物の多い、より良い土作りをすることで菌根などの栄養分の共生が促され、ぶどう自体が病気にも強くなる。植物間に調和が生まれ、深い味わいの、そして何より体に良いぶどうができ、それがワインへと変わる。
ワインの世界は、必然的に量から質へと方向性が変わりつつある。これは多くの生産者が、調和の取れた環境の大切さに気付き始めているからである。健やかな環境から生まれるワインは、画一的な大量生産品がもたらす味覚の貧困化に歯止めをかけ、その目には見えない価値が大きな感動を呼び起こす。こうしたワインは、限られた土壌資源を無駄無く有効に使うことから生まれる、健全で産地独自の味を持ったワインだ。」
偉大なワイン
少しだけ、ワインの話もしよう。
生産者:La Ferme de La Sansonnière(ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエール)
ワイン名:La Lune Amphores(ラ・リュンヌ・アンフォール)
品種:シュナン ブラン
ワインタイプ:白
生産国:フランス
生産県:ロワール
生産年:2016
販売元:Racines(ラシーヌ)
1989年創業。当主のマルク・アンジェリは、ニコラ・ジョリーらと共にビオディナミの最重要啓発グループ「ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン」の中核メンバーとして、世界にビオディナミの力を伝道した使徒の一人。
(輸入元資料抜粋)
「INAO (国立原産地呼称機関)と論争を繰り返し、原子力発電所建設に反対し、核開発や戦争に怒り、純粋に平和のために祈り、つねに古の叡智に耳と心を傾け、 精神をとぎすまし、マンネリと不断に戦い、思索しつつワインを造っているような人物です。純粋なひたむきさと強い意志、高い志と繊細な感覚が、経験から練りあげられた技と一体になって、丹精した畑の力を引き出すことに成功し、味わいに現れているのではないでしょうか。いまや人知の域を越えて「芸術品」ともいうべき境地に達した趣のある極上のアンジュを味わって、幸せなひと時に浸っていただきたいと思います」(合田泰子氏)
サンソニエールの「ラ リュンヌ」を初めて飲んだときのことを今でもはっきりと覚えている。ソムリエ時代に参加したワインの試飲会、沢山のワインが用意されており1番目から順番にハイペースでテイスティングをしていた(たしか30アイテム以上ほどだっただろうか、勤務中の短い休憩時間内で多くのワインを試飲するためにはかなりスピーディーに試飲しなくてはならない)。20番近くまでいいペースで試飲を重ねていた時、彼のワインを口に含んだ瞬間、それまでの速い動きが完全に止まってしまった。「なんだこれは」目をつむってじっくりとワインを味わい、その液体から感じる大きなエネルギーに圧倒され、且つその美しい完成された世界観に一瞬で魅了されてしまったことを覚えている。そして、すぐに造り手の名前を確認した。
心に響くワインだった。
最近とても思うことは、今の時代を見越す先見の明に優れたひとたちがどれだけ偉大かということと、むかしの時代から変わらず自然を敬い続け生きてきたひとたちが見てきた、感じてきたもの(感覚)がどれだけ真実かということだ。福岡正信氏(1913生)は、今から40年近く前から未来を危惧し己の思想をもとに農を実践された。後藤伸氏(1929生)は、紀伊半島南部の生態系の解明と保全に生涯を懸けて打ち込み、現在の自然保護などという概念が無い時代、周りから奇異の目で見られながらもその保護を訴え続けた。
古賀綱行氏(1918生)は、まわりの植物を「観察」することで季節の変化と温度を知り、花の咲き方でその年の天候を予測し、自然と共に農を営んでいた。
創業からビオディナミを実践し、強い意思でワイン造りを行うマルク アンジェリ、世間からワインとして認められない時代からナチュールワインを世に紹介してこられた先人たち、そしてこのワインを輸入しているインポーターRacines。
時代が追いつく前から先見の明に優れた方達に共通しているのはきっと「己の感覚を信じそれに従った」なのではないかと思う。
偉大な先人たちへの尊敬と感謝。
農園での取り組み
最後に、私自身が自分の農園で現在行っている取り組みや、今後の目標に関しても、お話しておきたい。
1.Vineyard:
・早生栽培(雑草選択、種まき)
・除草剤、殺虫剤(不使用)
・殺菌剤(要必要時)
・ボルドー液(減らす努力)
・自然エキス(微生物増、免疫強、防除):今春から
・ビオディナミ的思想(月、土壌微生物、周りの環境(森)も全て畑の一部として考える、五感、観察)
2. 環境(敷地内)
・杉林の整備(間伐)を行い森に光を入れ多様性を促進する:現在進行
・日本蜜蜂の飼育、巣つくりを行い、かれらの生息出来る環境をつくる(森つくりの重要な役割を担う):今春から
・日本蜜蜂の蜜源となる花の栽培(空きスペースを花畑へ変える):今春から
・県内食品廃棄物を堆肥化して、それを使用してお花畑をつくっていく:今秋から
・間伐した杉を幅広く利用していく(日本の大きな不の遺産「林業:放置された人工林」問題への提議、取り組み):現在進行
3. 野菜
昨年までは、在来種、固定種を種から有機栽培してましたが、今年はさらに
1. マルチの使用をやめる(プラスチック、ゴミ)
2. 不耕起(雑草根による耕耘)
3.自然エキス
を加え、福岡正信氏の思想や、古賀綱行氏、臼井健二氏、岡本よりたか氏、三浦伸章氏、竹内考功氏などの実践方法を自分なりに解釈したものを行う予定。
4. 目標
ブドウ栽培、ワイン造りを軸とした自給自足の豊かなライフスタイルを構築し、それを発信して、一人でも多く田舎で農を営む人を増やしたい。
地方が抱える少子高齢、人口減、限界集落、荒廃地、空き家などの多くの問題を少しでも解決する力になっていきたい。
2018年10月に家族で長野に来てから2年半、「ワイン造り」単体での響きは良いが、実際はブドウ栽培という農であり、農は自然の上に成り立っており、自然は環境であり、環境は動植物で営まれており、そこには大きな問題も存在していて、結局、ワイン造りという一つのものづくりだとしても、非常に多くのこと、極端に言えばすべてと関わっている ということに気付いてから、ワイン造りという立ち位置からでも、それらと全てとしっかり向き合い、考え、行動していくべき、していきたいと思うようになった。
今の子供たちが将来大人になった時に「何で何もしなかったの?」と言われないように、環境問題にはできるだけ取り組み、マイナスになることを極力減らし、逆にプラスになる行動をとっていきたいと思っている。
参考資料
「人新生の資本論」(斎藤幸平) 「コロナ後の食と農」(吉田太郎)
「あなたこそが、地球の最後の希望(講演)」(谷口たかひさ)
<プロフィール>
ソン ユガン / Yookwang Song
Farmer
1980年宮城県仙台市生まれ。実家が飲食店を経営していたこともあり幼少時よりホールサービスを開始。2004年勤務先レストランにてワインに目覚めソムリエ資格取得後、2009年よりイタリアワイン産地を3ヶ月間巡ったのち渡豪、南オーストラリア「Smallfry Wines(Barossa Valley)」にて約1年間ブドウ栽培とワイン醸造を学ぶ。また、ワイン産地を旅しながら3つのレストランにてソムリエとして勤務。さらにニュージーランドのワイン産地を3ヶ月間巡り、2012年帰国。星付きレストランを含む、都内5つのレストランにてソムリエ、ヘッドソムリエとして勤務。
2018年10月家族で長野へ移住。ワイン用ブドウを軸に有機野菜の栽培をしながら、より自然でサスティナブルなライフスタイルを探求している。
2021年ブドウ初収穫/ワイン醸造開始予定。
現在も定期的に都内にてワインイベントやセミナーなどを開催。
日本 ソムリエ協会認定 シニアソムリエ
英国 WSET認定 ADVANCED CERTIFICATE
豪国 A+AUSTRALIAN WINE 認定 TRADE SPECIALIST