SommeTimesでは、たびたびSDGsとワイン産業の関連性について取り上げてきた。
その中で、とある疑念が筆者の中で蓄積し続けてきた。
それは、ワイン産業は本質的には農業である、という観点から生じた疑問であり、あらゆる産業だけでなく、地球の環境保全と人類の関係性にも複合的に対応したSDGsとはどうしても交わりきれない部分があるのでは、という仮説だ。
なお、本ショートジャーナルの趣旨は、SDGsを否定することでも、検証の対象となるボジョレーヌーボーを否定することでも、特定の生産者を非難することでもない。
むしろ筆者は、SDGsに関して「何もしないよりも、何かをした方が絶対に良い」という立場を取っている。
どうか、誤解なきよう。
*SDGsそのものに関しては、今更説明の必要もあまり無いとは思うので、復習も兼ねて、外務省のパンフレットをお読みいただければと思う。
SDGsとボジョレーヌーボー
SDGsが掲げる17の目標の中で、直接的にワイン産業と関連しているものは限られるが、関連性の高いものから、一つずつ実情と照らし合わせながら検証していく。
目標1【貧困】
ボジョレーは決して裕福なワイン産地ではなかった。ワインの価格から考えれば、フランスの中でも底辺近くに位置していた産地とも言える。そんな産地にあって、危機に瀕していた多くの農家を救ったのが、ボジョレーにあるいくつかの巨大ワイナリーであることは、紛れもない事実だ。そして、大量の販売が見込めるボジョレーヌーボーが、多くの零細農家を養ってきたのも間違いない事実である。現在、産地としての名声が数十年前よりかは遥かに高まった中で、以前の「救い」が「継続的搾取」に変化していないとは言い切れないと思うが、この辺りは「視点」によって意見が異なるため、一方的な意見を押し付けるのはナンセンスだろう。(巨大ワイナリーに葡萄を提供して得る対価に、農家自身が満足しているのであれば、他人が口出しをするようなことではない。)
少なくとも、貧困を防ぐという取り組みにおいて、ボジョレーヌーボーは確かな実績を残し続けている。
目標6【水・衛生】
気候変動の本格化によって、旱魃が深刻化しているワイン産地は、世界各地に少なからずある。そのような産地では、飲み水を含む人の生活用水よりも、葡萄栽培に優先して水が使われた場合、極めて深刻な問題となる。しかし、平均年間降雨量が700mmを超え、降雨期も一年を通してある程度分散しているボジョレーにおいては、水の過剰使用が問題になることは、今のところ無いだろう。フランスを含む、ヨーロッパ伝統国では、灌漑に関する規制がすでに緩められているが、現状ではあくまでも「緊急時」に限った規制緩和である。