本年もついに大晦日を迎え、また一年の締めくくりとなるBest Performance Awardの選出をする時がきた。
例年通り、選出基準は単純な価格でも味わいでもなく、その総合評価であり、さらにその中でも印象に強く残っているワインから、これぞというものを選出させていただいている。
ある意味では私自身の興味が反映されたセレクションではあるのだが、それは同時に、現在進行形で世界のワイン産業で起こっている最先端の動きを追ったもの、でも部分的にはある。
今年も数えきれないほどの素晴らしいワインに出会えたことに、心から感謝したい。
Sparkling Wine部門
Marguet, Shaman 20. ¥11,500
ナチュラル・シャンパーニュとして、孤高の輝きを放つMarguet。Grand Cruの村毎に仕込まれたキュヴェや、単一リューディのキュベ、そして最高峰のSapienceなど、より高級なラインのシャンパーニュはすでにシャンパーニュ・ファンが血眼になって探し求めているし、その品質も圧倒的に素晴らしいのだが、私が心からの感動を覚えるのは、むしろベーシック・ラインのShamanだ。Pinot Noirが81%、Chardonnayが19%という構成の「20」は、そのスタイリッシュでエネルギッシュな味わい、大胆さと緻密さを兼ね備えたストラクチャーで、この価格帯のベーシック・キュヴェとしては、頭一つ抜けた完成度に到達している。
白ワイン部門
Andreas Tscheppe, Salamander Plus “Reserve” Chardonnay 2021. ¥16,800
今年は念願だったツェッペへの訪問が叶った。そして、現地でテイスティングしたこのワインには度肝を抜かれた。
Plusのシリーズは、発酵が完全に終わっていないワインを瓶詰めしたツェッペが近年行っている新たな取り組みなのだが、このReserveは、残しておいた樽が再発酵を始めたことで、偶然生まれたキュヴェとなる。
異次元に多層的なアロマと風味、威風堂々とした存在感、強固でありながらも柔和なテクスチャー。私のワイン人生でも、シャルドネのBest5に確実に入るであろう、驚きの超傑作ワインであった。
赤ワイン部門
Giz, Baga Vinhas Velhas 2020. ¥5,200
ポルトガルのBairradaを訪れた時、その石灰質の巨塊が如き真っ白な土壌にも、複雑に捻れた太い古木の数々にも随分驚かされた。数多くの葡萄畑を見てきたが、素晴らしいワインは、いつだって素晴らしい葡萄畑から生まれるものだ。そして、Gizが手がける古樹のBagaも最高だった。滋味深いアロマ、しなやかで落ち着いたテクスチャー、じわりじわりと染み込んでくるフルーツ、長大なミネラルの余韻。この品質のワインが、この価格で手に入ることには、やはりポルトガルというワイン伝統国の、凄まじいポテンシャルを感じずにはいられない。
ロゼワイン部門
Claude Riffault, Sancerre “La Noue en Rosé” 2022 ¥6,000
近年、私の中で一級品の珍品探しがブームとなっている。そして、今回のロゼワイン部門賞に輝いたのも、珍品の部類だ。フランス・ロワール地方のSancerreは、なんと言ってもソーヴィニヨン・ブランから造られる白ワインが名高いが、近年はピノ・ノワールの赤も人気が高まりつつある。しかし、Sancerreのロゼとなると、なかなか珍しい。しかし、現代ロワールの雄となったリフォーの手にかかれば、マイナーなワインでも、特別な輝きを放つに至る。これまでは、薄くてどうにもつまらないイメージだったSancerreのロゼに、これほどの奥深さと洗練が施されるとは、本当にこの造り手は、私の常識をいつも軽快に破壊してくれる。
オレンジワイン部門
Nikolas Juretic, Toc di Montone 2022. ¥12,000
2月にイタリアを訪問した際に、フリウリ州の東端で、新世代の息吹を感じられたことは、今年一番の収穫だったかも知れない。ラディコンやグラヴネルの時代から、もう世代は巡っているのだ。旧世代と新世代の間に見られる大きな大きな違いは、マセレーションの期間にあると、断言しても良い。新世代の多くは、マセレーション期間を長くても2週間程度まで短縮し、より精密にテロワールを表現しようと試みているのだ。ニコラス・ジュレティックによるこのワインも、山側の冷涼なテロワールを、短いマセレーションで繊細に描き出した、大傑作。オレンジワインからテロワールを語る時代が、もう目の前まで来ていることを感じる。
極甘口ワイン部門
Savage, not tonight Josephine 2022. ¥9,000
極甘口ワインの素晴らしさが理解できないプロフェッショナルを、私は尊敬することができない。辛口マッチョは個人の嗜好としては自由だが、最も芸術的とすら言えるこのカテゴリーのワインには、やはり極上の魅力が宿るものだ。本年も、数多くの極甘口をテイスティングしたが、中でも印象に強く残ったのは、南アフリカのスター、ダンカン・サヴェージによるシュナン・ブランの逸品。極上のピーチ、マンゴー、アプリコットをブレンドしてネクターにし、丁寧にフィルターをかけてピュアなジュースに仕上げたかのような、甘美極まりない魔法の液体だ。全ての疲れが、この一杯で吹き飛ぶ。まさにこういうワインこそ、一年の締めくくりに相応しいのでは?と心から思う。