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PIWI品種とナチュラルワイン <オーストリア・シュタイヤーマルク特集:Part.3>

気候変動とナチュラルワインは、すこぶる相性が悪い。

 

低介入醸造を可能とする葡萄の必須条件はいくつかあるが、その最たるものは、低いpH値(単純化すると、高い酸度)と、高いポリフェノール類の熟度だ。

 

気候変動の一部である温暖化は、糖度の上昇を大幅に加速させるため、低介入醸造を重要視する造り手たちは、アルコール濃度の抑制と低pH値のために、早摘みを余儀なくされる

しかし、過度の早摘みは未熟なポリフェノールともダイレクトに繋がるため、結局問題が起こる

 

この堂々巡りを回避するために、栽培品種が今の気候に適しているかどうかも含めた畑仕事の根本的な見直しや、糖度上昇の加速によって劇的に狭まった「適熟」のスイートスポットを、決して逃さないように収穫することが、かつてないほど重要になっているが、当然それも、簡単なことではない。

 

特に収穫タイミングに関しては、超速で飛ぶジェット機を、連写機能を一切使わずに写真に収めるようなものだ。

 

 

栽培に関しては他にも、オーガニックという大きなカテゴリーの生産者に対しても、問題がのしかかっている。

 

温暖化は生態系にも影響を及ぼすため、これまでには無かった病害虫が襲いかかってくることは、もはや日常茶飯事。

 

局地的なゲリラ豪雨や、より広範囲の短時間集中豪雨も増え、カビ類が主因となる病害への対策も、激化の一途を辿っているし、大雨による地崩れで失われる畑も続出している。

 

時代の流れもあり、オーガニックやビオディナミ農法に踏み切るワイナリーが大幅に増えた一方で、いざという時には強力な薬剤で対処ができるサスティナブル農法にとどまる造り手が依然として多いのも、気候変動がもたらす負の影響を鑑みれば、納得せざるを得ない部分が大きい。

 

さらに、どこかで大雨が降れば、どこかがその分だけ乾燥する、という法則によって、旱魃が激化する地域も同時に増えている。

 

旱魃は葡萄樹を枯死させるため、灌漑への依存度を高めざるをえなくなるが、そもそもそのような地域では水が足りない。最悪のシナリオとして、人と葡萄樹のどちらに水を回すか、という選択を迫られることすら、現実にならないとは言い切れない。

 

そして、旱魃は山火事のような大規模自然災害にも繋がる。

 

旱魃ばかりは、節水と貯水でなんとかするしか無さそうだが、その他の困難に対して、より強度の化学的手段で対抗し続けた場合、さらなる気候変動へと繋がる恐れも十分にある。

 

ここにも堂々巡りの構造が、はっきりと見えてくるのだ。

 

このような現状に対して完全に無策のままでは、8,000年以上続いてきた人類の財産であるワイン文化が、消滅へと向かうことにもなりかねない

 

そこで、現在大きな期待を寄せられているのが、PIWI品種の導入である。



 

PIWI品種

PIWI(ピーヴィーと発音する)は、ドイツ語で「真菌耐性付き葡萄品種」を意味するPilzwiderstandsfähigen Rebsortenの略となり、日本語ではそのままPIWI品種、もしくは「カビ耐性品種」と呼ばれる、交雑品種の特殊カテゴリーとなる。

 

まさにこの「カビ耐性」に特化した特性が、一般的なハイブリット品種とPIWI品種の決定的な違いとなる。

 

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