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真のテロワールワイン -West Sonoma Coast AVA- 【特別無料公開】

オールドワールドはテロワールのワイン、ニューワールドはワインメーカーのワイン。


そう思っている、いや思い込まされているワインプロフェッショナルとワイン愛好家が、少なくとも日本では圧倒的大多数となるのは間違いない。


確かに多くのニューワールド産地では、ヨーロッパの銘醸地(特にフランスとイタリア)と比べると、テロワールが根底にあるワイン法や原産地呼称制度が整っていなかったため、テロワールを見出していくための重大な手がかりに著しく欠けてきたのも事実だ。どれだけ熟達したプロフェッショナルであっても、ノーヒントでワインだけからテロワールの微妙な差異を看破しきるのは非常に困難な作業となる


さらに、ワインという「数多の要因がもたらした最終的な結果」である飲み物には、テロワール以外の様々な変数(栽培醸造上のありとあらゆる選択)が複雑に絡み合っているのもまた事実だ。そして確かに長い間、ニューワールド産ワインには、その変数がより多く反映されてきたとも言える。


だからこそ、最終的な結果であるワインを生み出したワインメーカーの味、という非常に簡略化された理解の先へと進むことが、難しかった。


かくいう私自身も、キャリアの大部分を「誤解したままのマジョリティ」として過ごしてきた。いや、正確に言うと、ニューワールドワインからテロワールを見出すというチャレンジは繰り返してきたが、高く分厚い壁に跳ね返され続けてきたのだ。


しかし、2010年代の初頭からだろうか。明らかな風向きの変化を感じ始めた。


2023年の今、その新たな風は大きく強くなり、私は再三失敗してきた挑戦が、今度こそは成功に至るのではと、確かな希望を抱いている。


待ちに待った変化の要因は大きく分けて3つとなるだろう。


1. ミレニアル世代がマーケットの中心となったことで、思考と嗜好に変化が生じた。

2. 栽培醸造上の変数が明らかに減少し始めた。

3. 徐々にテロワールが主体となった原産地呼称整備が各地で進んだ。



ミレニアル世代の台頭は、個性と多様性の尊重という思考の変化と、ビッグワイン嗜好からの脱却という多大な変化をもたらし、この一連の流れの礎となっている。


栽培においては、テロワールをひどく歪めかねない化学肥料の大量施肥や灌漑への重度依存からの脱却、醸造においては個性を平均化させるだけの不要な添加物や、過剰な矯正を施す近代技術からの脱却という大きな変化が生じた。これらの例はあくまでも氷山の一角に過ぎないが、総合的な結果として最終的なワインに関わる変数が減ったことにより、元となるテロワールが明らかに鮮明に見えるようになったのは間違いない。


さらに、原産地呼称(地理的表示)整備がその変化を後押ししている。平均化された酒質の元では形骸化した概念と成り果てていた制度に確かな意味が宿り始めたことによって、その先へと力強く進むために必要不可欠な狭域の制定にも、価値が生まれたのだ。


ワインを学ぶ人たちの中には、このような新たなAVAの続出は「また覚えることが増える」と煩わしく感じる人も多いかも知れない。しかし、広域エリアの細分化というステップは、10年、20年後の未来にとっては多大なる意味をもつことを、どうかご理解いただきたい。



West Sonoma Coast AVA

2022年5月23日、長年のカリフォルニアワインファンにとっては実に喜ばしいニュースが届いた。


West Sonoma Coast AVAの誕生だ。


広大すぎるSonoma Coast AVAの中には、とてもCoast(海岸)とは呼べないような場所も多々含まれていたため、1990年代から今回West Sonoma Coast AVA(以降、West Sonoma CoastはWSCと表記)に認定されたエリアに葡萄畑をもつ造り手たちは、その場所を「True Sonoma Coast(真のソノマ・コースト)」と自称してきた。


海と山と霧が生み出す冷涼な海洋性気候、という特異なテロワールを有するこの地は、彼らが他の場所と混同されるのを嫌がるに充分たる個性をもっていたのだ。


しかし、新たなAVAの申請というのはそう簡単に進むものではない。


2011年にWSCの6ワイナリーが集まって申請に向けての準備を始めたが、申請要件を満たすためには膨大なリサーチと資料作成が必要だったため、申請は2015年にまでずれ込んだ。


それから7年後の2022年。ようやくWSC AVAが正式に認定されたのだ。


しかし、全てが願った通りになった訳ではない


©️Vinous


今回認定されたエリアは地図上の赤線で囲まれた範囲となったが、オリジナルの申請では南東側の薄く色が塗られたエリアも含まれていた。


その原案自体は2015年の申請時には問題が無かったのだが、その後AVAを認定するTTB(The Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau)のルールが変わり、極めて複雑かつ実現不可能に近いプロセスを経ない限り、そのエリアを含めることができなくなってしまった。


WSC AVA認定のために重要な役割を果たしてきたテッド・レモン(Littorai)の話を聞く限りでは、「2つの中域原産地呼称を重複させることができなくなった」ということのようだ。


実際には非常に複雑に入り組んだ制度及び規制となっているので、あくまでも参考程度にしていただきたいが、Sonoma Coast AVAのMapを分かりやすく整理するとこうなる。


©️Sonoma County Vintners


まずは、Sonoma Coast AVAを広域(超広域、超々広域となるAVAもあるが、今回は除外する)、WSC AVAやRussian River Valley AVAを中域、Fort Ross-Seaview AVAを狭域として仮にカテゴライズする。


中域は広域に部分的にでも含まれることができる(Russian River Valley AVAの一部はSonoma Coast AVAからはみ出している)が、新たな法律では狭域が中域と重複するためには一つの中域内に全て範囲が収まっている必要(中域の中に収まることによって、狭域となる)があり、中域同士の重複は原則として不可となっているようだ。


WSC AVAの原案には、同じ中域であるRussian River Valley AVAの南端に位置するエリアが含まれていたため、重複させることができなかったが、狭域のFort Ross Seaview AVAは中域のWSC AVAに全て含まれていたため問題とならなかった。


ルール改正以前に制定された重複例の扱いが今後どうなるのかは不明だが、少なくとも新たに重複させることはできなくなったため、このような結果となったのだ。


このように色々な事情があるのは重々理解しているが、本記事では、WSC AVAの原案に基づいて検証を進めていく。


ワイン産地の境界線は、人が政治的経済的思惑によって定めるのではなく、自然が定めたものに人が従うべきであると、私は強く信じているからだ。




West Sonoma Coast AVAのテロワール

WSC AVAの葡萄畑に宿ったテロワールは、より影響力の強い4つの要素によって大枠が定められると言えるだろう。オールドワールドにおける諸条件とは異なる部分もあるため、一つ一つ丁寧に解説していく。またこれ以降、冷涼、温暖という相反する言葉が入り混じることになるが、WSC AVA自体は全体としては明確に冷涼気候に属しているため、温暖といっても、あくまでも冷涼地域の中での、対比的表現として捉えていただきたい。


まずは、海からの距離

WSC AVAの海岸線に入り込む海流は強い寒流となっており、一年を通じて約11度に海水温が保たれている。この寒流は海から内陸へと吹き込む冷風の元ともなり、結果として海からの距離が近い畑ほど冷涼となる。


次に、標高

一般的には高標高ほど冷涼となるが、WSC AVAにおいては海からの距離の方が大きな影響力をもつ。そして、この標高と密接に関わってくるのがの存在だ。海からの湿気を大量に含んだ冷たい霧は、強力な冷却効果ももっているのだが、この霧は平均すると標高300m近辺までしか届かない。つまり、霧が届かない高さにある葡萄畑は霧による冷却効果を受けないため、標高が高いにも関わらず霧がかかるエリアよりも暑くなるのだ。(以降、霧がかかる境界線をフォグラインと記述する。)


斜面の向きの影響もまた大きい。

聡明な葡萄農家達は、WSCの特殊なテロワールと向きあいながら、最適な方向に斜面を切り拓いてきた。例えば、海から近く、標高も低いWSC南側のエリア(正確には後述するFreestone-Occidental地区の南側)では、葡萄畑のほとんどが南方向を向いている一方で、少し内陸に入り、標高もやや高くなる(それでも霧はかかる)南東部エリアになると、北向きの斜面も増えてくる。総合すると、斜面の向きに関しては、海からの距離と標高によって決定されるテロワールの根幹に加えて、より温暖に(南向き)になるか、より冷涼に(北向き)になるか、という判断要素として考えておくと良いだろう。


最後は土壌だ。

WSC AVAの主役となるブルゴーニュ品種が、土壌に対して極めてセンシティヴに反応することは言うまでもないだろう。本記事ではなるべく簡素にまとめるために詳細は割愛させていただくが、WSC AVAの主要な土壌は以下の5つとなっている。


1. ゴールドリッジ:明るい茶灰色の砂岩で適度に水捌けが良い。

2. ヒューゴ:薄茶色の堆積岩で水捌けが良い。

3. ジョセフィン:濃い茶色の崩積岩、堆積岩、火山岩の混合土壌で水捌けが良い。

4. ラフリン:茶色の砂岩で、ゴールドリッジよりも水捌けが良い。

5. ヨークヴィル:片岩、堆積岩などの混合土壌で水捌けが良い。



WSC AVAにある葡萄畑では、これらの要素が複雑に絡み合いながらテロワールの個性が形成されている。つまり、WSC AVAという広義で特徴を語るのは容易ではなく、同AVA内で、さらにいえば同葡萄畑内でも、相当なヴァリエーションが見られるということだ。


また、これらのテロワール前提条件の先には、人による栽培上の様々な選択(クローン、台木、収量制限、農法、灌漑、収穫時期など)が結果に関わってくるが、難解になり過ぎるので、本記事では前述の要素にのみフォーカスしていく。



WSC AVAは、さらに3つの非公式サブゾーンと1つの公式サブゾーンに分けることもできる。


北部のAnnapolis地区、中央部のFort Ross-Seaview AVA地区、南部のFreestone-Occidental地区、そして今回の認定には含まれなかった南東部のSebastopol Hills地区だ。


以降、各サブゾーンの解説と共にそのエリアの生産者たちを追っていくが、本記事はWSCのテロワールとワインの関係性を理解することに主眼を置いているため、生産者の詳細な情報やストーリー、各ワインに関する言及は最低限にとどめさせていただく。


もちろん、ワインに例外は付き物であるため、以下で言及していく内容は、あくまでも大まかなイメージとなるが、ワイナリーや葡萄畑の位置と紐付けてWSC AVAをより深く理解していくのには、十分に役立つ情報となるだろう。





Annapolis地区

北部のAnnapolis地区は、葡萄畑の位置によって、フォグラインの上下どちらかに入るかが変わるため、フォグラインの上はより温暖に、フォグラインの下はより冷涼となる。


Peay Vineyards

Annapolis地区の中央部、海岸線から約6.4km、海抜約180~235mの地点に、Peay Vineyardsは葡萄畑を拓いている。海からの近さとフォグラインの完全に下となる標高が合わさり、非常に冷涼なポケットとなっている。


2014、2020、2021年のヴィンテージをテイスティングしたが、一貫して張り詰めたようなタイトなテンション感と、フレッシュな果実味、鋭角な酸が特徴として現れ、それは2020年のような暑いヴィンテージであっても同様だった。


そして、2014年ヴィンテージのフレッシュ感には驚かされるばかり。この畑がもつ偉大な長期熟成能力は、疑いようもない。


引きの醸造と、緻密なテロワール表現が生み出す味わいは、玄人好みの実に奥深いものだ。



Alma Fria

Annapolis地区の北部、海岸線から約8km、海抜300mを超える地点というAlma Friaの葡萄畑が有するテロワールは、同じ地区のPeay Vineyardsとはかなり異なっている。海からはより遠く、フォグラインの上に位置しているため温暖だが、冷たい海風は届くため、大きな昼夜の寒暖差が生じる。


そのテロワール通り、シャルドネには温かみを感じさせるメロン様の果実味が、ピノ・ノワールにはややダークな赤ベリーのニュアンスが宿りつつも、共に酸が充実している。


非常にナチュラルな造りであるため、少々の揮発酸によって分かりにくい部分もあるが、ワインの根底にこの葡萄畑のテロワールは間違いなく根を張っている。




Fort Ross-Seaview AVA 地区

WSC AVAの中では唯一の単独狭域AVAでもあるのがFort Ross-Seaview AVA。大まかに分けると、最も冷涼な西部、やや温暖な北部、かなり温暖な東部となるが、起伏が激しいエリアでもあるため、単純化は難しい


Hirsch Vineyads

カリフォルニアでも、最も名の知れた葡萄畑の一つであるHirsch。間違いなく、カリフォルニアにおけるブルゴーニュ品種ワインを黎明期からリードしてきた、偉大な銘醸畑だ。Fort Ross Seaview AVA地区西部にある葡萄畑の最西部は海岸からの距離が約4.8km、海抜は約275m地点からさらに上へと広がっている。つまり、海からの冷却効果は強く受けるが、畑は各ブロック(合計61ブロックもある)の標高やヴィンテージによって、フォグラインの上下を行ったり来たりする


このテロワールは、冷涼感と暖かさの共存、という非常に特殊な個性をワインにもたらす。


総体としての個性は、最良区画の最良バレルをセレクトした“Reserve” Estate Pinot Noirに良く現れているが、ブロック間の個性の違いもまた非常に興味深い。


“West Ridge” Estate Pinot Noirはフォグラインの境界線付近の畑であるため、中庸とも言えるマイクロ気候が特徴。海の影響もありシャープな酸が保たれるが、まさに涼しさと暖かさが共存したワインと言える。


一方で“East Ridge” Estate Pinot Noirは標高約490mの地点にある急勾配のブロックから造られるため、ワインに明確な暖かさが宿る。


濃厚なピノ・ノワールとシャルドネで知られるMarcassinが、この周辺エリアにある335m地点に畑を有していることからも、Fort Ross-Seaview AVAの東側が、西側と比べても明らかに温暖であることが良くわかる。



Wayfarer

海岸から約6.5km、海抜は約330mでフォグラインの上という地点に葡萄畑があるWayfarerは、やや温暖なFort Ross Seaview AVA地区北部の個性を非常に良く現している。


ピノ・ノワール、シャルドネ共に、リッチな果実感と太い酸が立体的な骨格を形成し、絶妙な樽のトリートメントで複雑性が高められた、非常に洗練された味わい。


さらに興味深いのはクローンのコンビネーション(ブロック)で分けられた、一連のピノ・ノワール。


Pinot Noir “Golden Mean”は力強いPommard系クローンと、ロマネ・コンティ・クローンとも呼ばれるエレガントなSwanクローンが植えられたブロックから。両極端なクローンが混ざり合うことによって、レイヤーのある奥深い味わいとなっている。


Pinor Noir “The Travellar”は、Swanとは別種となるブルゴーニュ由来の「スーツケース・クローン」が植えられたブロックから。このクローンの出自は不明(ブルゴーニュを代表する生産者のブルゴーニュを代表する葡萄畑から、ということだけは明かされている)だが、その圧巻のバランス、奥深さ、ミネラルの緻密な表現、真円を描くようなテクスチャー、そしてSwanクローンを取り巻く伝説へのオマージュ、というワイナリーの文面から、どうにもあの葡萄畑へと妄想が膨らんでしまう。


クローンの選択は、そもそもテロワールとも密接に結び付いているものだが、この辺りの話をするとキリがなくなるため、深追いはやめておくことにする。




Freestone-Occidental地区

Sebastopol Hills地区

Freestone-Occidental地区では、標高がフォグライン境界線付近となる北部と、フォグラインの下になる南部とで大きく個性が異なる。


Sebastopol Hills地区はフォグラインの下に入る畑が多いが、海からの距離が遠くなるため、Freestone-Occidetal地区の南部ほど冷涼にはならない


この両地区間にまたがってワインを生産する造り手も多いため、合わせて紹介していく。


Freeman Vineyard and Winery

Freestone-Occidental地区北部に自社畑のYu-ki Vineyardを構えるのが、Freeman Vineyards and Winery。海からの距離は約8km、海抜はフォグラインの境界線となる300m近辺にある急勾配の畑だ。


その立地条件が示唆する特徴はワインにも見事に現れており、Fort Ross Seaview AVA地区西部をややリッチにしたような果実感、急斜面らしい深いミネラル感と、エッジの効いた酸によって、涼しさと暖かさが共存する三次元的味わいが演出されている。


余談だが、Yu-ki Vineyardのすぐ近くには、多数のワイナリーが葡萄を購入してワイン造りを行っている高名なCharles Heintz Vineyardがあり、その味わいもまた、Yu-ki Vineyardと非常に良く似た特徴をもっている。



Senses Wines

Sonoma Coastにある銘醸畑の数々から、緻密で優美なワインを手がけるのがSenses Wines。


シャルドネでは、フォグラインの境界線となるFreestone-Occidental地区北部のCharles Heintz、フォグラインの下となるFreestone-Occidental地区南部のB.A. Thieriotが、それぞれ異なるテロワールを精緻に表現している。


ピノ・ノワールでは、Freestone-Occidental地区北部のHillcrest(Day One Pinor Noirというキュヴェになる)、Sebastopol Hills地区のKantzler、Freestone-Occidental地区南部のBodegas Thieriotの順に飲めば、段階的に冷涼感が強まっていくのが、非常に良く分かる。



Ernst Vineyards

Ernst Vineyardsは、WSC AVA南部を中心に、見事なブルゴーニュ品種を手がけている。


Freestone-Occidental地区南部のJoyce Vineyard(シャルドネ)とCleary Freestone Ranch(ピノ・ノワール)からは、共にWSCの中でも際立った冷涼感が緻密に表現されている。


また、少し温暖になるSebastopol Hills地区にあるH. Klopp Vineyardからは、Joyce Vineyardにほのかな暖かさを足したような、優しい味わいのシャルドネが造られている。


Ernst Vineyardsもまた、テロワールを精密に表現することが出来る卓越した造り手だ。



Cobb Wines

ワインメーカーのロス・コブは、WSCを代表する歴戦の醸造家の一人として知られる。またピノ・ノワールにおいては、全房発酵にも積極的(全房100でも0でも、正しい判断ができることが大切と本人は話していた。)で、WSCの中でも一際スタイリッシュな個性が光る。


Sebastopol Hills地区のH. Klopp Vineyardから手がけるシャルドネは抜群のバランス感覚を誇り、緻密なミネラルの表現が実に美しい。海からは遠いが、海抜は約105mという特性が、実に良く出たワインだ。


さらに興味深いのは、2つのピノ・ノワールの対比。


Sebastopol Hills地区のRice-Spivak VineyardはH. Kloppと良く似たテロワール条件だが、土壌には火山灰が混じるため、非常にライトなテクスチャーと淡く繊細な味わいとなる。


Fort Ross Seaview AVA地区とFreestone-Occidental地区の間、海岸からは約6.4km、標高は275~335mという地点にあるDoc’s Ranch Vineyardは砂岩と粘土が多い土壌。冷涼感の条件としてはRice-Spivakとほぼ同様とのことだが、粘土の影響は強いからか、より濃密でダークな果実味が宿る。


海からの距離と標高の組み合わせによって、気候的条件が良く似ている場合に、土壌組成がどれだけ大きな影響を及ぼすのかを、はっきりと確認することができる。



Littorai

アメリカを代表する、といっても過言ではないこのブルゴーニュ品種の大名手については、すでに多くの情報が得られるであろうことから、表層的な言及は避けることとする。


当主のテッド・レモンとは深い会話をたくさんする時間に恵まれたが、その驚異的な知見、思慮深い語り口、隠しきれない情熱、圧倒的なリーダーシップに、私はただただ吸い込まれていった。求道者、という表現がよく似合う偉人だ。


Freestone-Occidental地区南部のB.A. Thieriot、Freestone-Occidental地区北部のCharles Heintz、Fort Ross-Seaview地区西部のHirsch、そして自社畑であり非常に厳格なビオディナミ農法が実践されているSebastopol Hills地区のPivot。


それぞれの畑が宿すテロワールが、鮮明にワインへと転化されつつも、一貫したエレガンスに満ちている。


Littoraiは確かに凄いワインだが、それ以上に究極的に素直で正直なワイン、という印象が強い。Littoraiが他のWSCワインと比べて圧倒的に優れている、とも思わないが、それでも彼のワインには、心を惹きつける何かが宿っている。


その正直さは、まるで真理へと直接繋がっているかのようで、目の前にあるのに、悟りが足りないと手を触れることすらできない、という不思議な感覚に襲われるのだ。


私も長年のLittoraiファンでありながら、今回のWSCを広く網羅した比較テイスティングを通じて、ようやくその一端に触れることができた。




総括

WSC AVAの認定、そこに内包される4つのサブゾーン、テロワールを形作る要因、そして時代の先端をいく、スマートに洗練された引きのワインメイキング。


整理された情報と、数々のテロワールワインによって、これまで非常に体系的な理解が難しかった、かつてのTrue Sonoma Coastを、これまでの大まかなイメージの先にまで進んで理解することができたように思う。


そして、何より大切なのは、WSC AVAのワインが、ニューワールドでもテロワールに深く根ざしたワインが造れることを、疑いの余地が一片もないほどに、証明しているということだ。

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