「善く国を治める者は、必ずまず水を治める。」
古代中国の春秋時代、斉の宰相であり、良く知られた法家でもあった管仲が残した言葉だ。
私は今、北アフリカのリビアに思いを馳せている。
9月10日、リビア東部を襲った地中海熱帯様低気圧(通称、メディケーン)は、沿岸都市デルナにある、老朽化した2つのダムを決壊させ、推定死者数1万人超と考えられる、未曾有の大災害を引き起こした。
東西で政治的分断が起きているリビアでは、避難指示の伝達網も機能しておらず、何よりも政治の基本である治水を、後回しにしてきた。
その決定的怠慢が、多くの人々の命を奪うことにつながったのは確かだが、そもそもなぜメディケーンがそこまで破壊的な威力をもつに至ったか、そして、国土の90%が砂漠であるリビアを襲ったのかは、別の問題だ。
そう、メディケーンが凶暴化した理由として可能性が高いものの一つ(ハリケーンの激化は、実際にはかなり複雑な要因によって起きていると考えられている。)とされているのは、地中海の海水温の上昇、つまり地球温暖化である。
さらに、気候変動が偏西風を不規則に変化させた結果、メディケーンがリビアに届くまで南下してしまったとも考えられている。
日本においても、近年ゲリラ豪雨や線状降水帯、低速度かつ高強度の台風などによって、水害が激化しているのはご存知のことかと思う。
しかし、その被害にあっている地域の多くが、「治水」という大きな政治の力が及びにくい、山間部や農村部であることを、どれだけの人々が認識しているだろうか。